第三百十九話『昇華』
「託す……って、何のためにだよ⁉」
「そうです!それに、俺の力は権能とはまた違うもので――」
「……僕に残る権能なら、それを取り外すことだってできる。……あれがアイツの遺産である以上、残しておくわけにはいかないんだ」
新しい世界に、ボスの気配は必要ない。カヴォイのものも、ボスのものも。それらすべてを排して、カヴォイは初めてこの世界での役割を終えられるのだから。
「……この世界は、お前たちのものだ。余計なものは全部、僕が持っていく」
「余計なものだなんて……‼」
「余計だよ。この世界に、僕の痕跡は必要ない。……アレは、歪な力なんだ」
神はこの世界にもう必要ない。強い意志を持った誰かが、この世界を統べなくてはならないのだ。そしてそれが黒乃たちだったらいいと、カヴォイは思う。
「……大丈夫、お前たちならこの世界をまとめられる。僕はもう、この世界には必要がないんだよ」
役割は果たした。土台は作った。……退屈にも思える世界を作ったのは、今この時のためだと今ならば胸を張って言える。その行く先を見ることが出来ないのは、少しだけ残念だけれど。
「……悪くない、幕切れだよ。これなら、後悔はないさ」
「やめろ、まだ何か手段が……がッ⁉」
「ダメです、まだ諦めちゃ……あ、が」
『魂握り』で権能を、異能を抜き取られたことのダメージは大きいのか、二人は力なく地面に倒れ伏す。こんな方法で権能を奪い返すことが出来たとは意外な話だが、きっと万全の戦闘中にできる芸当ではないだろう。……こうした異質な場でこそ、初めて正当な奪還が成せたのだ。
無限の魔力、時間操作―—そして魔力の掌握。無敵に等しい権能を手に入れても、カヴォイの命が蘇っていく気配はない。魂が摩耗しているのだ。あの時の力の代償は、カヴォイの消滅。いかなる奇跡を用いても、それが覆ることは無い。
「それでいいさ。……ここまで来て、僕が生きるのも、間違ってる……」
そんな最後では、きっと物語は彩られない。世界に変化を強いるのならば、それなりの痛みは必要なのだ。……それが、カヴォイの結論だった。
「ダメだって言っても、もう止まらないんだよな。……止められないん、だよな」
「……なんで、そんなに穏やかな色なんですか。……少しでもあなたがそれを拒んでいたなら、俺が何をしてでも助けに行けたのに」
止められないじゃ、ないですか。
リヴィの目からは涙がこぼれている。それは自らの無力さを嘆くものであり、大切な人との別れを惜しむものだった。……それに安心してしまった自分が、少しだけ憎らしい。
「……大丈夫だ。僕のいた証の全てが、この世界から消えてなくなるわけじゃない。……お前たちが語り継いでくれるなら、僕はきっと忘れられたりしないさ」
もとより神とはそう言うものだ。実在なんてなくていい。……ただ、誰かの拠り所であれればいいのだ。消滅して初めて、きっとカヴォイは神に成れるのだろう。
「……それじゃあ、僕はもう行くよ。……力が、入らないんだ」
存在という楔が、ゆっくりとはがれていくのを感じる。苦痛を感じないのが救いだった。……神が救いを与えられるなんて、おかしな話にもほどがある。程がある、けれど。
「……じゃあ、後の世界のことはよろしく。……楽しかったよ」
――その言葉を笑顔で伝えられたから、もうカヴォイに後悔はなかった。
次回から数羽ほど、残された者たちのエピソードが始まります!カヴォイが守った世界の後を、黒乃たちはどう受け継いでいくのか、その姿をぜひ見届けてください!
――では、また明日の午後五時にお会いしましょう!




