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career design

エミが母の実家から車で20分ほどの海が見える丘の中腹にある全寮制の女子高に転校して、すでにひと月が過ぎようとしていた。


その寮では学生にベッドと机と小さなクローゼットがギリギリ置ける程度の広さに防犯ベルと有線のネット環境を備える個室が与えられていた。


共同のトイレ、海が見えるお風呂、風通しの良いキッチンとランドリーなど、設備は全て生徒が順番に清掃を担当してきれいに保つことになっているので自然に知り合いや仲間が出来ていくように考えられているのだが、

自分の役割さえ割りきってきっちりこなしていれば必要以上に他人と付き合いをしなくても居場所を確保できるところがエミには合っていた。


この学校のクラスメイトたちは個人主義キャラばかりで、他人の事を気にしていないし仲良くつるむ事を望んでもいない様子に見えて、ひと学年30名ほどの学生は皆、全国から来ているようでしかもほとんどの生徒が転校生として個々に居場所を守っている。


近くに住むエミの母方の75歳の祖母は医者の娘で、5年ほど前にある程度の遺産をエミの祖祖父から受け継いだので今回の件ではすぐに、エミの転校先の全寮制女子高校の相当に高額な学費のスポンサーになってくれた。


エミは母や祖母のためにもとにかく今の自分がすべき事として、共通テストで点を取ることを重点に学校だけでなくリモート塾にも入会してスマホ漬けをやめて受験勉強対策を進めることに集中していた。


すでに憧れの男性として輝いて見れなくなった教師のタチバナのことは、今はそう思い出すこともないし彼からのLINEもPCメールも返信しなくても気にならなくなっていた。


タチバナに会えて学校内で流産してしまった話をした時、彼がほんの少し安堵の表情をしたのをエミは見逃さなかった。


実際タチバナは母親や妻になるにはまだ若すぎるエミのことを思って安堵していたのだが、エミの方はタチバナが自分と結婚して生涯妻子の面倒を見なければならなくなった人生から逃れられて自由が獲得できたことへの安堵だと思えた。


一度そう感じると相手への恋心は急激に消滅してしまうもので、タチバナのマンションで抱き合っていた自分の過去が恥ずかしく思えるエミは、全てを忘れるためにも受験勉強に打ち込んでいた。


エミは将来、男性に付属することなく自立したいので、コロナ禍でも給料や手当てが全く減らなかった業種に就きたいと思うし、もし結婚することになるなら辞めても社会復帰が出来る仕事をしたいと思い「守破離」に相談メールを出したところ、返信されてきた添付話からは、選択肢を増やすためにはまず自分がやりたいことを学べる大学への進学が重要なのだと読み取れた。


ようやくエミには進学についての迷いがなくなっていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~


タチバナは、メールしても返信のないエミが無事に大学生になるまでは自分は陰ながら応援し続けようと心に決めて、京都の私立男子校の中途教員募集に応募して無事に決まり、さっそく引っ越す準備を進めていた。


元々人当たりが良く真面目なタチバナは、裕福な家庭の男の子達が通う中高一貫男子校にもすぐに慣れ、副担任としての職務をこなしているうちに保護者や生徒達からも頼られ好かれるようになり、彼自身の心も少しずつ癒される気がしていた。


新しい学校では自分が女生徒の一人を妊娠させてしまったことなど誰も知らないが、自分は決して忘れることなくこれからもエミを見守りながら教職というものにどっぷりと向き合ってみようと心を決めていた。


エミの初めての相手になれたこと、エミを泣かせてしまったこと、何も知らない女の子に知らなくてもよかった嫌な事をたくさん経験させてしまったことなどは、全部自分のせいだったと今のタチバナには素直に思えた。


また、数日おきの自分へのストイックで気持ち悪いブラックメールも、丁寧に読み取って返信しているうちに少しずつ攻撃性が和らいできて、こんなメールを出させるのもやはり自分のせいなのだと素直に思える心が生まれてきていた。


タチバナは、エミが無事にやりたいことを見つけてその道を歩むための大学に進めるようにと願いながら、朝から夜まで男子校の学生達のための課題や資料を工夫しながら時間を惜しまず毎日製作していた。


京都に来てからは休日でも女たちが接客する夜の店には行かず、かといって新しい出会いを求めるわけでなく、タチバナはあたかもタイのストリクトな僧侶のように暮らしていたが心にエミが居るためか孤独感からくる寂しさは感じなかった。


30歳になるタチバナは、生まれて初めて一人の大切な女性を愛するという意味や価値を知り自分が創りどしている理想的なエミ像に少年のように一途な恋をしていた。












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