8.隊員たち
目の前には、人生で初めて見るタイプの車が止まっている。
ミニバンよりひとまわりは大きく、側面には窓が四つもある。角張ったフォルムと迷彩柄が、いかにも軍人さんが乗っていそうな雰囲気だ。
勤務中に魔物が現れたことで仕事どころではなくなった私たちは、魔物討伐隊が到着するまでの間、二人でラジオに齧り付いていた。
戸坂さんがいろんなチャンネルに合わせていたが、この辺りで魔物が発生した情報は全く流れていなかった。
通報してから十分ほどで、魔物討伐隊はやって来た。
「――そして、ビシャは何もせずに外に出たと……」
「……はい」
「……ほんとに魔物だったんですか?」
突然そんなふうに言われ、一瞬言葉に詰まる。
「えっ? あ、はい。……たぶん、じゃなくて、はい」
……魔物じゃなかったとして、可能性があるとすればお化け……? いやいやいや、あれはビシャだって戸坂さんが言ってたし。
しどろもどろな私に、隊員の人が疑わしそうな目を向ける。
「ちなみにその時間、警報が出た記録はいっさいありません」
もしかして、いたずらに通報したと思われてる? それともこの世界では魔物のように、お化けも存在するのかな?
この世界の常識があまりわからないせいか、終始あいまいな回答になってしまう。
それからも続く質問になんとか答えていると、隊員の男性が諦めたように大きくため息をつく。
「……ひとまず、お怪我がなくなによりです。何か思い出したらことがあれば、ご連絡を」
……なんか、ごめんなさい。
申し訳ない気持ちで、去っていく隊員の男性の背中を見送る。その奥では、戸坂さんが別の隊員から事情聴取を受けていた。
まだ終わりそうにない気配に、手持ちぶさたになった私は、コンビニの駐車場に並ぶ見慣れない車を眺める。
「車に興味がありますか?」
背後から聞こえた声に振り向くと、個性的なファッションの青年がこちらに近づいて来ていた。隊服を着ているので、この青年も魔物討伐隊の隊員のようだ。
「この車は高機動車と言うんですよ。自衛隊も同じタイプの車に乗るんですが、魔物討伐隊は黒色、自衛隊はカーキ色と違いがあるんです」
「…そうなんですね」
青年は私の相槌に目を輝かせ、魔物討伐隊について熱く語りはじめた。
「自衛隊と違って、魔物討伐隊にあまりいいイメージはないかもしれませんが、我々は――」
車から視線を外し、語り続ける青年の顔をじっと見つめる。
はたから見れば、私は青年の話を熱心に聞いているように見えただろう。
だが、実際のところ、このとき私は別のことに気を取られていた。
青年が気づいていないことをいいことに、私の目線は彼の目より上の方。眉上で横一直線に切り揃えられた綺麗な前髪――の、さらに上。
頭に生えた、角だった。
角といっても、動物の頭についてるものとは違うし、もちろん頭皮から生えているわけではない。
昔話に出てくる鬼の角のような形に、銀色の金属めいた質感の角が、カチューシャのような形をした台座に固定されていた。
…これは、ファッションなのかな。前髪も、私の事情聴取を担当した人と同じだ。
もしかしたらこの世界では、この前髪も角のカチューシャもお洒落なのかもしれない。
「あれ? もしかして未来ちゃん?」
「……あ」
名前を呼ばれふり返ると、見覚えのある茶髪の男性隊員。
彼は丸くした目を私の隣へ移すと、何かを察したかのように、にやにやと表情をゆるめる。
「葵ー。いくらモテへんからって、仕事中にナンパはあかんで」
「してませんよ! 按田さんこそ、何しに来たんですか」
声をかけてきたのは、昨日鎌鼬に襲われたところを小鳥遊さんと助けてくれた、按田さんだった。
「相方が謹慎中でなぁ。今日は技術班の手伝いやねんけど、ややこしすぎて頭痛なってきた。ってことで葵、交代」
「できるわけないじゃないですか。…つまり、サボりたくて出てきたんですね。戻らないと葉月さんに怒られますよ」
按田さんは葵さんの言葉が聞こえなかったかのように私に話しかける。
「あ! そーいや未来ちゃん。また魔物に襲われたんやって? 大丈夫やった?」
「……はい。ただ、見ただけというか……」
心配する按田さんに、先ほどの事情聴取と同じような説明をする。
今回は襲われたわけではなく遭遇しただけで、魔物も店内を一周したらすぐ出て行ったと話すと、按田さんは微妙な顔をした。
「ビシャやって? また珍しい魔物が現れたなぁ。しかも、魔力源地感知レーダーの感知力を下回るレベルの低級の魔物って……」
「あれ、やっぱりレーダーの故障じゃなかったんすね」
「あったり前でしょ! そんな簡単に故障なんてされてちゃ困るって」
「イテっ!」
聞き慣れない言葉が続くが、私が質問する前に按田さんの顔が前にぶれる。
後頭部をさすりつつ振り向いた按田さんの背後には、葵さんと同じ角のカチューシャをつけた黒髪のショートカットの女性が立っていた。
……やっぱり角のカチューシャ、流行ってるのかな。
「葉月ちゃん! 外出てきてどないしたん?」
「どーしたもこーしたも、アンタを回収しに来たのよ。女の子引っ掛けてないで仕事しなさい! 葵、あんたもさっさと立花のとこ戻りな」
「は、はい!」
葉月さんの言葉に、葵さんは慌てた様子で私に会釈すると、店内へ走って行った。
葵さんが去ると、葉月さんが私ににこりと笑顔を向ける。
「騒がしくてごめんね。大丈夫だった? 変なことされてない?」
「ひどいなぁ葉月ちゃん。そんなんするわけないやん。それに未来ちゃんは二日連続魔物に遭遇してんねんで? そら心配して様子見に来るんは仕方ないやろ?」
「アンタはサボりたかっただけでしょ?」
葉月さんは按田さんを睨みつけ、呆れたようにため息をつく。
……二日連続で魔物に遭遇するのは珍しいのかな。
「……あの、聞きたいことがあるんですが」
「ええよ。何でも聞いて?」
即答した按田さんに、葉月さんの目がさらに細まる。
だが、私と目が合うと仕方なさそうに息をはき「答えられることなら」と頷いた。
「低級の魔物が現れることは少ないんですか?」




