↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気づけば異世界(パラレルワールド)にいた、私の日常。  作者: 現実逃避万歳٩( ᐛ )و


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/31

28.答え

 


「未来ちゃん! 元気でしたか!?」


 一週間ぶりに出勤すると、私を見て目を丸くした秋田ちゃんが駆け寄ってきた。


「こないだのお祭りの日に現れた魔物に襲われたって聞いて、すごく心配してたんです!」

「ぜんぜん大丈夫! ちょっと多めに休ませてもらってただけだから!」


 目を潤ませて、顔を近づける秋田ちゃんの肩に慌てて手を置く。

 心配は嬉しいけど、ちょっと近いよ……。


「ほんとに大丈夫なんですね!?」

「うん! 怪我も自分で転んでできたものだけで、全然元気だよ!」

「……よかったぁ」


 私がそう説明すると、やっと安心したのか秋田ちゃんが離れる。

 目尻に溜まった涙を拭う姿に、なんだか胸が温かくなった。


 その後、あまり話すこともなかった百田さんにまで声をかけられてチョコを貰う。休んでいた私の代わりに、百田さんもシフトに入ってくれていたのだ。

 次に出勤する時は、絶対に百田さん……いや、皆に渡せるお菓子でも用意しよう、そう決意した。



「流田さん。大丈夫なの?」


 百田さんと秋田ちゃんが帰ったのを見送るとすぐ、戸坂さんから声をかけられた。


「もう大丈夫です!」


 答えながら、つい戸坂さんから目を逸らす。

 申し訳なさから眉を下げる私を、戸坂さんが不思議そうに見つめた。


「戸坂さん、……すみません! せっかくもらったお守り、壊れちゃって」


 そう。実は鬼に投げつけたとき、数珠は破裂して粉々になっていたのだ。

 鬼を倒した魔物討伐隊の人が破片を拾ってくれていたらしく、後から沙良木さんに私のものかどうかを確認された。

 ぱっと見は粉々すぎてわからなかったが、詳しく聞いた状況からして私のだと思ったので頷いた。

 そんな私に、沙良木さんは曖昧な笑みを浮かべていた。

 ……あれは、どういうことだったんだろう。


「……役に立った?」


 沙良木さんのことを思い出していた私は、戸坂さんからかけられた声にはっとする。


「はい、とても。ありがとうございました」

「ならよかった」


 そう言った戸坂さんとは視線が合わなかったが、なんとなく声が優しい気がした。

 ……今日は『流田さん』呼びなので、戸坂さん『本人』のはずだ。

 だけどいつもと違い、無言が続いても不思議と気まずい雰囲気を感じない。

 静かで落ち着いた雰囲気に、気づけば誰にも相談できなかったことを話していた。


「……私、魔物討伐隊にスカウトされたんです」

「…………へぇ」


 ゆっくりと戸坂さんの顔がこちらに向けられる。

 その表情に浮かんでいたのは、純粋な驚きだった。


「私、人より魔力が多くて、魔力操作もできるみたいです。この力は、たくさんの人を救えるって言われました」

「そうなんだ」


 平坦な声で相槌を打つ戸坂さんをじっと見つめる。


「……断ろうと思うんです」

「いいんじゃない」


 すぐ返ってきた言葉に、思わず目を丸くした。


「魔物討伐隊って命懸けなのに、世間からは敬遠されやすいし。よっぽどお金に困ってないなら、それでいいんじゃない」


 そう、あっさりと言われ、ふっと肩が軽くなる。

 魔物討伐隊は世間から避けられやすい職業だとしても、なくてはならない仕事だ。

 私が魔物討伐隊に入ることで、大勢の人を守ることができる。それなのに私は、他人のために自分の命をかけたくない、と思ってしまった。

 そんな考えになる私は、どれだけ身勝手なんだろうと思っていた。


 驚きで固まる私の顔を見た戸坂さんは、片方の眉を上げる。


「俺さ、これでも跡取り息子だったんだよね」

「……はい」

「界隈ではそれなりに有名な家で、後ろ暗いことに関わることも多くてさ。権力ちらつかせて偉そうにしてる連中に、必死に頭を下げ続ける親父のようになるなんて、俺は絶対に嫌だった」


 戸坂さんがくしゃりと顔を歪める。

 それは、私が初めて見る戸坂さんの表情だった。


「俺が跡継ぎじゃなくなれば、姉貴が代わりになる。それを俺はわかっていても、戻らなかった」

「それが、家を出た理由ですか?」

「……まあ、そう」


 哨子さんのことを話している戸坂さんには、今でも葛藤があるように思えた。


「俺は自分の人生を、血の繋がった姉のためであっても犠牲になりたくなかった。……結局は俺もあいつらと同じ、自分勝手な人間だよ」


 戸坂さんは最後にポツリと小さく呟き、自嘲気味に笑った。

 哨子さんの話では、戸坂さんは五年も家から逃げ続けているはずだ。

 ……逃げていたのは、私も同じか。

 今更だが、人の家庭の事情に首をつっこんでおきながら、私が同じことをされたらどう思うか。

 哨子さんに協力するのは、ひどく無神経だった気がする。

 視線が床に落ちる。

 ふいに、最後に見た父の姿を思い出しそうになり、慌てて頭をふってかき消した。


「……なに急に?」

「いえ……あ。そういえば、もう一つ聞きたいことがあったんです」


 怪訝そうな表情を向ける戸坂さんに、ふと思い出したことを問いかける。

 ずっと誰かに聞きたくて、なかなか言い出せる機会がなかったのだ。


「呪術師ってなんですか? 私、哨子さんにもしかしたら呪術師の血を引いてるかもって、言われた、ことが……」


 途中で言葉が途切れてしまう。

 戸坂さんの空気がそれまでとは一変して、鋭く細めた瞳で私を見ていた。


「そのこと、誰かに言った?」

「いえ、誰にも…」


 なんとなく、おおっぴらに聞かない方がいい気がしていた。だから、今まで誰にも聞けなかった。

 そして、沙良木さんや戸坂さんの反応からして、その考えは間違っていないはずだ。

 私が首を横にふると、少しだけ張りつめた空気が和らいだ。


「……その方がいいよ。それに、今ならはっきりわかる。流田さんは違うから大丈夫」

「違うって……?」

「ちゃんと力のある――呪力を持つ呪術師は、同じ呪力を持つ人がわかるんだ。お守りを渡すまで、流田さんは確かに怪しかったけど……」


 突然、話していた戸坂さんの顔が固まった。

 数秒後、何かを思い出したかのように私を見る。


「ねえ、流田さん。五、六ヶ月くらい前の……ちょうど隣の県で雪女が現れた日を覚えてる? 魔物討伐隊が鎌鼬を脱走させてしまった日の方がわかりやすいかな。テレビで何度も取り上げられてたし」


 戸坂さんの質問にこくりと頷く。

 それははっきり覚えている。だって私がその鎌鼬に襲われたから。


「あの日、もしくはその前日、何か変わったことはなかった?」

「……え、と。どうしてですか?」


 あると言えば、ある。鎌鼬に襲われたこともそうだが――そもそもその日は、私がこの世界に来た日だ。


「確かその日からみたいなんだよね。流田さんから、その――呪力を感じたのは」

「え……?」

「まあ、今はもうすっかり消えてるんだけど。初めて聞いた時は魔物かと疑って――」


 ……魔物かと疑って?

 固まる私に、戸坂さんはさっと視線を逸らした。


「ごめん。ちょっと話しすぎた」

「魔物かと疑ったって、どういうことですか?」


 考えるより先に聞いていた。

 ……だって、私は人間だ。

 なぜかわからないが気づけばこの世界にいて、この世界にも存在する流田未来として生きている。

 強くなっていく鼓動に気づかないふりをして、じっと戸坂さんを見つめた。

 口元を押さえ、しばらく考え込んでいた戸坂さんが、軽く息を吐く。


「……もう、今更か」


 そう呟き、私をまっすぐに見つめて口を開いた。


「魔物って発生してからしばらくは、ちょっとだけ呪力を感じるんだよね。そのうち勝手に消える程度の――前の、流田さんみたいな」

「私、みたい……?」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。