24.射的
「お久しぶりです、小鳥遊さん」
声をかけると、目を瞬いた小鳥遊さんがぺこりと頭を下げる。
「お久しぶりです。流田さん、と……」
「未来の親友の、前園です」
小鳥遊さんに視線を向けられた瑠美も軽く頭を下げた。
「初めまして。魔物討伐隊の小鳥遊です」
魔物討伐隊の隊員だとはっきり伝えた小鳥遊さんを気にする様子のない瑠美に少しほっとした。
「今日は…お仕事ですか?」
悩んだのは、小鳥遊さんが珍しく制服を着ていなかったからだ。
柄のない薄いベージュの浴衣に焦茶色の帯と、軍服を着ていない小鳥遊さんにはいつものような固い雰囲気がない。
ただ、よく見ると腰のあたりには短刀と銃が装備されていた。
「一応そうです。でも――」
「あー! 未来ちゃんやんー!」
「わっ!? 按田さんっ、今は驚かさないでください! ……あっ!」
「……」
何かを言いかけた小鳥遊さんの言葉を遮ったのは、射的銃を持った按田さんだった。
どうやら射的をしていたらしい。的を大きく外した葵さんを、葉月さんが冷たい目で見ている。
珍しく、全員が浴衣を着ていた。
……葵さんと葉月さん、今日は角のカチューシャをつけてないんだ。あれも装備か何かかな?
「こういう人の多いイベントは巡回が必要なんです。さすがに軍服を着てたら目立ちますし、その場に適した服を着ることもあるんです」
「巡回中に射的をやりたがったバカもいるけどね」
小鳥遊さんの説明に、続けてそう言った葉月さんは冷たい目で按田さんと葵さんを見た。
「そんなことより未来ちゃん、ひさびさやなあ。元気やった? そっちは未来ちゃんのお友達?」
葉月さんの言葉を思いっきりスルーした按田さんは、にこにこと私たちに笑いかける。
「はい。はじめまして、前園です」
瑠美はそう言うと、また軽く頭を下げる。
「二人ともお面、似合ってるなあ! 前園ちゃんは浴衣なんや、めっちゃかわい――いてっ!」
頭を押さえる按田さんに、葉月さんが無言で冷ややかな視線を送っていた。
「なんや、冗談やん。葉月ちゃんもかわい――いてっ! 褒めてんのになんで叩くねん……!」
無言で按田さんの頭や背中を叩く葉月さん。二人の様子に目を丸くして、慌てて間にはいる葵さん。
そんな三人の様子を眺める小鳥遊さんの口の端が、少しだけ上がっていた。
「二人で遊んでいたところ邪魔してすみません。こいつらはあっちに連れてくので、気にしないでください」
「いえ……、すごく賑やかですね」
「……たまに、うるさく思う時もありますけど」
最後に「楽しんでください」と軽く手をふり、小鳥遊さんは三人の輪に入っていく。
なんとなく後ろ姿を見つめていた私に、瑠美が声をかけた。
「未来、りんご飴かおー」
「うん。……あ」
おいしそうなりんご飴を選んでいると、隣の屋台で売っている串肉が目についた。
「瑠美、あれ買ってあの人たちにあげてきてもいい?」
「……いいけど」
今でこそ魔物とあまり遭遇せずに過ごせているが、少し前までは頻繁に魔物討伐隊に助けられていた。
それなのに、まともにお礼をしていなかったことに気づいたのだ。
瑠美に一言断り、串肉を買う。振り向くと、四人はまだ射的の前にいた。
「葵へぼすぎやろ!」
「さっき按田さんが驚かせてきたせいですよ! 小鳥遊さん、按田さんをぎゃふんと言わせてください!」
「……え? 俺?」
「ちょっと……それで最後にしてよね」
近づきながら、銃を構えている小鳥遊さんを見つめる。
片目を閉じて的をしっかり狙う横顔が、綺麗だと思った。
そして、小鳥遊さんが撃った瞬間。
――カコン、と一番小さい的が倒れた。
「うわっ、ほんまに当てた!」
「さすがです小鳥遊さん……!!」
「はい、もう終わり。早く次の場所に行かなきゃ…」
葉月さんがそう声をかけ、それぞれ景品を受け取った四人が移動しようと動きはじめたので慌てて声をかける。
「あのっ! よかったらこれ、みなさんで食べてください!」
パックに入った串肉を、ビニール袋ごと差し出す。
四人からの視線を感じる中、受け取ってくれたのは小鳥遊さんだった。
「……ちょうどお腹が空いていました。ありがとうございます」
「蓮! 一人で食べたらあかんで、未来ちゃんみんなにって言うてんから! 俺も食べるからな!?」
「僕も食べますよ!!」
無事受け取ってくれたことにホッとしていると、葉月さんがポツリと呟く。
「規則では、何を入れられるかわからないから、こういうのを受け取るのは禁止されているのだけど」
「え……」
「私もちょうど小腹が空いてたのよね。ありがとう」
そう言うと、葉月さんは私の目を見て微笑んだ。
……そっか、魔物討伐隊もいろいろ規則があるのは当たり前だよね。……危険も、魔物だけじゃないんだ。
軽い気持ちで渡したことを反省していると、按田さんに串肉の袋を預けた小鳥遊さんが目の前に立つ。
「わざわざありがとうございます」
「いえ、すみません。私、何も知らなくて……」
眉を下げてそう伝えると、小鳥遊さんは首を傾げ、葉月さんにちらりと視線を向けた。
「他の隊員の目があれば断らないといけないので、今でよかったとは思ってます。ちょうどお腹がすいてましたし……」
小鳥遊さんはそう言ったあと、少し視線をさまよわせ、片手を私に差し出した。
手のひらには、小さい小鳥のキーホルダーがのっている。
「これ、さっき景品でもらいました。肉のお返しです。……俺には可愛すぎて使えませんし」
確かに、手のひらに置かれたピンクの小鳥はフォルムもまるまるとしていて、ファンシーで可愛らしい見た目だった。
「ありがとうございます」
お礼とともに、小鳥のキーホルダーを受け取る。
目が合った小鳥遊さんは、ふわりと微笑んでいた。
「ごめんね瑠美! おまたせ……!!」
「いいよーん」
私が走って瑠美に駆け寄ると、いつのまにかわたがしと串肉を両手に持っていた。
わたがしを分けてもらって食べている私を見て、瑠美がお肉を頬張る手を止める。
「わたせた?」
「うん! ほんとにありがとう!」
感謝の気持ちを込めて力強く伝えると、瑠美は「よかったね」と笑ってくれた。
「それより、わたがしどこに売ってたの!?」
「あっちー! まだまだ食べないといけないものは多いよ〜!」
それから、目につく屋台の食べ物のほとんどを食べた。
食べ過ぎて飲み物すら胃に入らないくらいに食べて、遊んで、笑った。
この日は、私がこの世界に来てから一番楽しい思い出の日になった――あの出来事がなければ。




