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気づけば異世界(パラレルワールド)にいた、私の日常。  作者: 現実逃避万歳٩( ᐛ )و


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21.協力

 


『わたくしが教えてあげましょう。……その代わり、わたくしに協力してくださいな』


 哨子さんはそう言い、ゆっくりと両手の指を組むと、その上に顎を乗せ微笑んだ。

 上目遣いにじっと見つめてくる哨子さんの瞳にどこか圧を感じ、思わず視線を逸らす。


「……先に、何に協力をすればいいのか、聞くことはできますか?」

「それだと……まあいいわ」


 哨子さんは不満そうに眉をよせながら少し考える様子を見せたが、息を吐くと話しはじめた。


「哨悟が家に帰るように、協力して欲しいの」


 どういうことかと言うと、なんでも戸坂さんはとある名家の跡取り息子だそうだ。

 しかし、五年前に父親と大喧嘩をしてから、誰にも何も告げずに家を飛び出した。

 それきり家族の誰も戸坂さんと連絡が取れなくなったらしい。

 この世界の戸坂さんにそんな事情があったなんて……。

 いつも飄々としている姿からは想像もつかなかった。



「あの子は天才だから、わたくしたちから隠れるのが上手くて。わたくしがやっとあの子を見つけたのも、一年くらい前になるわ」


 なんとか戸坂さんを見つけた哨子さんは、家族の他の誰にも居場所を教えず、一年ほど密かに戸坂さんを見守っていた。

 ……大量の盗撮をしながら。本人いわく、ただの記録らしいが。

 家族に戸坂さんを見つけたことを伝えなかったのは、無理矢理にでも連れ戻される可能性が高かったからだ。


「そんなことになれば、あの子は一生外に出られなくなる。そんなの可哀想でしょう?」


 そう言い眉を下げ微笑む哨子さんは、大事な弟を心配する姉の姿だった。

 そして、哨子さんが戸坂さんに一年間話しかけなかった理由は、頑固な彼を説得したところで家に戻らないとわかっていたからだという。

 それは私がどう協力しようと、戻らない気がする。

 話を聞いた私の表情をみて、哨子さんはこくりと頷く。


「哨悟と職場が同じだけの貴女に、家に戻るまでの説得はあまり期待していないわ」

「なら、私は何に協力するんですか?」


 私の質問に、哨子さんが瞼を伏せる。

 一拍置いて視線を上げた哨子さんは、まっすぐに私と目を合わせた。


「簡単なことよ。哨悟が家を出た本当の理由を聞き出してくれればいいの」

「それは……戸坂さんが家から出て行ったのは、親子喧嘩が原因ではないってことですか?」


 また視線を伏せた哨子さんは、ゆっくりと首を横にふる。


「喧嘩の原因も、父と哨悟にしかわからないわ。二人とも、母にもわたくしにも話す気はないんだもの。ただ……」

「?」

「哨悟は自分の居場所が知られる可能性があるのに、それを貴女に渡したでしょう」


 哨子さんは寂しそうな表情で、テーブルの上に置いた白い数珠に指を滑らせる。


「わたくしもつい焦ってしまって、本人に直接話しかけてしまったのだけど……やっぱりまともに話もしてもらえなかったわ」


 俯いた哨子さんの顔を、さらりとしたまっすぐな髪が覆った。

 その場がしん、と静まり返る。

 少し溶けた氷が、カランと動く。

 数秒後。

 コツリと革靴が床を踏む音が鳴る。

 視線を上げると、八代さんが哨子さんの耳元に顔をよせていた。


「お嬢様、そろそろ戻りませんと……」

「ええ、そうね」


 八代さんの言葉にぱっと顔を上げた哨子さんは、普段の表情へ戻っていた。


「思ったより時間をいただいてしまったわ。わたくしは事情を話したのだから、貴女はもちろん協力してくれるわよね?」


 黒いレースの手袋をした指が頬に添えられる。赤い唇はゆったりと笑みを浮かべていた。

 戸坂さんの家庭の事情に踏み込むことに、もちろん戸惑いはある。

 ……私は、戸坂さんに家を出た理由を聞くだけ。

 答えを出した私は哨子さんをまっすぐに見つめる。


「協力します」


 私がそう言うと、哨子さんは満足そうに頷き席を立つ。


「ここはわたくしの店だから、お会計は必要ないわ。それと、魔物がよってくる原因については――」


 私も席を立とうとテーブルに手をつくと、隣に来た哨子さんが私の肩に手を置いた。


「貴女、呪術師の血をひいているのではなくて?」

「呪術師……?」

「まあ、貴女を視るかぎりそれは可能性の一つにすぎないのだけれど。だから……今回の協力の成功報酬に、視(・)る(・)力(・)が強い人を紹介してあげる」




 ――――




 その日家に帰った私は、なんとなく携帯の過去の写真フォルダを見返していた。

 その中に父が写っていた写真を一枚だけ見つける。

 小さい頃、家族でお祭りに行った時に、私と父が手を繋いでいる姿を後ろから撮った写真だ。

 唯一見つけた写真は後ろ姿で、この時父がどんな顔をしていたのか、私は思い出すことができなかった。


 ――夢を見た。

 魔物のいない世界で私は、大好きな母と、優しい父と、家族三人で笑い合っていた。

 私の就職先が決まったお祝いで、食卓いっぱいにご馳走が並んでいる。

 三人で食卓を囲んでいると、玄関のチャイムが鳴る。

 玄関を開けると、瑠美がお祝いに駆けつけてくれていた。

 その後ろには小鳥遊さんや按田さん、魔物討伐隊の人たち、戸坂さんや秋田ちゃんたちバイトメンバーまでもが立っていた。

 いろんな人にお祝いされながら、大好物のチーズケーキを食べる。

 そんな、幸せな夢だった。



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