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気づけば異世界(パラレルワールド)にいた、私の日常。  作者: 現実逃避万歳٩( ᐛ )و


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19.白黒写真

 


 戸坂さんに『本物のお守り』を渡されて二日後。

 防犯霧の中身の補充をするため、私は再び都会に来ていた。


 以前小鳥遊さんが燈ノ万屋で補充できると教えてくれたので、目的地は燈ノ万屋だ。それからラジオの電池も買わないと。

 購入した日に手動ハンドルを回していたことで充電されていたのか、警報がしっかり流れていたので電池の購入を忘れていたのだ。



 初めて来た時と変わらない、怪しげな雰囲気の漂うビルの階段をのぼる。

 いくつもの植木鉢や花瓶が周囲に並ぶ、開きっぱなしの扉をくぐった。

 どこからか、ちりんちりんとベルが鳴る。

 見渡す限りベルなんてないのに、この音はどこから鳴ってるのか不思議だ。


「おや、久しぶりだね」

「お久しぶりです」


 ベルの音が聞こえたのか、燈ノ万屋のおじいさんがレジ奥の扉から出てきた。

 以前と同じように髪がばっちり整えられていて、オレンジのベストと紫の蝶ネクタイと組み合わせがお洒落だ。


「今日はこの中身を補充してほしくて来ました。中身だけ購入はできますか?」

「もちろん。ちょっと時間がかかるから、待っててくれるかい?」



 おじいさんが扉の奥に下がり、手持ち無沙汰になった私は店内の商品を見てまわる。

 前回来た時は目当てのものが決まっていたから、他の商品をあまり見れていなかったのだ。

 まずは端っこから……と視線をあげて周りを見渡し、ふとレジ横の壁に掛けられた写真が目に留まった。

 そこに飾られている写真のすべてが白黒で、その中にある一枚の集合写真をじっと見つめる。


 ――【はなみちホーム】


 赤いカラーペンでそう書かれている白黒写真。

 おそらく子どもが書いたであろう文字は、文字の大きさが一文字ずつ違っていて、かろうじて人の顔には被らないようになっている。


 写真に写っているのは全員で二十人くらい。その半分が小学生から高校生くらいの子どもだった。

 写真に写っている人の顔になんとなく見覚えがある気がして、一人一人じっと見つめる。

 ……あ、おじいさんだ。

 一番右に燈ノ万屋のおじいさんが、小さな子どもと手を繋いで立っていた。

 笑顔で反対の手でピースをしている、活発そうな子だ。隣にはその子よりも背の小さい、不貞腐れた顔でカメラを睨む子ども。

 そしてその子どもの両肩には、後ろに立つ人の手がそれぞれ置かれていた。

 左肩に手を置いているのは、黒髪で中性的な顔立ちの学ランを着た男の子。

 右肩に手を置いているのは――


「おとうさん……?」


 そこに、私の『父』がいた。


「おまたせ」

「っ!」


 すぐ隣からかけられた声に心臓が跳ねる。

 横を向くと、いつのまにかレジを挟んでおじいさんが立っていた。


「補充しといたが、予備にもう一つ持っとくと安心だよ」

「……ありがとうございます」


 防犯霧を受け取り鞄に入れる。

 お金を支払い終え、あとは帰るだけ……なのだが。どうしても、あの写真が気になった。


「あの、この写真って……」

「うん? ああ、『花道児童ホーム』の子たちだよ。英史と可蓮もそこに写っとる。確か英史が八歳、可蓮が五歳だったかな」


 ……花道児童ホーム? 

 柔らかい笑顔で指を指すおじいさん。

 おじいさんと手を繋いでいた子が按田さんで、隣の不貞腐れた顔をしているのが小鳥遊さんらしい。


「可蓮は昔は気難しい子だったんだよ。人と関わろうとせんかった可蓮をよく連れ出しとったんが、英史と環(たまき)でな」


 そう言いながら指を滑らせた先は、綺麗な顔の学ランを着た子。この子が『環(たまき)』のようだ。

 私は震える指を、そっとおじいさんの隣に置く。


「……この人は?」

「昔から『花道児童ホーム』を、定期的にボランティアでまわっとった人だよ。子どもたちに料理を教えてくれて、面倒見が良くて、子どもたちからも好かれとったんだが……」

「今は、なにを……?」


 声が、思いのほか店内に大きく響いた。

 数秒の沈黙。

 心臓が跳ね続けるのを感じながら、私はおじいさんを見つめ、その口が動くのをじっと待った。


「……亡くなったよ」




 ―――――




 帰り道、駅まで少し遠回りをして歩いた。

 あちこちで見かけるフェンスや全ての窓につけられたシャッター、見せつけるように銃を持つガードマン。この世界に来てから見慣れてきた光景だ。


 燈ノ万屋で聞いた、おじいさんの言葉を思い出す。

『――彼は、十七年前のスタンピードで亡くなったみたいでね。葬儀も親族のみで行ったみたいだから、私も人づてに聞いただけなんだ』

 私がいた世界で生きていても、この世界で生きているとは限らない。


 後から知ったことだが、『花道児童ホーム』というのは魔物の被害で親が亡くなった子どもたちのための児童養護施設だった。

 そこへ『父』がボランティアとして通っていた。

 大好きな料理を、子どもたちへ教えるために。


 大事な何かを失くした時のような感覚に襲われ、少し息苦しかった。

 ……だけど、そんな私を冷静に傍観している私もいる。

 この世界の『父』のことはよく知らない。

 それなのに、どうして……。


 頭がまわらないまま歩いていると、赤信号を前に足が止まった。


「……あ」


 ぼうっと目の前に流れていく車を眺めていると、道路を挟んだ向かいの歩道に見知った顔の人がいることに気づく。

 ……あれって、戸坂さん?

 なにやら女性と言い合いをしているようだ。

 離れようとする戸坂さんを引き止めようと女性が腕に触れると、それをすごい剣幕で振り払う。

 俯く女性をそのままに、戸坂さんは背を向けて歩いて行った。

 信号が青に変わる。

 歩き出しながら先ほど見た光景が気になり、つい女性へと目を向けてしまう。

 しかし、その女性に集まる視線は私ひとりだけではなかった。

 なぜならその女性は、ものすごく目立つ格好をしていたからだ。

 黒い厚底のローファーに、フリルのついたロングスカート。胸元には黒い大きなリボンと、頭にフリル付きの黒いボンネット。

 そして、いくつもの小ぶりなリボンの付いた真っ黒の日傘をさしていた。

 見事に全身真っ黒の……ゴスロリだ。

 さすがに近づくにつれて視線を外し、何も見なかったかのように横を通り過ぎる。



「……ちょっと、そこの貴女」


 駅までちょっと遠回りしすぎたのか、駅の方向がわからなくなっていた。

 マップを確認しようと鞄に手を入れて携帯を探す。


「ちょっと、聞こえていまして?」


 携帯を取り出して画面を開き――


「ちょっと! わたくしの声が聞こえませんの!?」

「わっ!?」


 突然、私の手首が黒い手袋に掴まれた。


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