17.お守り
瑠美が携帯を耳に当ててすぐ、聞き慣れたブザー音が次第に大きくなっていく。
それからほんの数分で駆けつけた魔物討伐隊は、初めて見る顔ばかりだった。
「通報者の前園さんですか?」
到着するなり私たちを見てそう尋ねたのは、黒髪をオールバックにして後頭部でまとめた丁髷の男性だった。
「はい」
丁髷男性は返事をした瑠美から私に視線を向ける。
「ではあなたは?」
「友人の流田です。……前園さんと一緒に魔物に遭遇しました」
「流田……?」
丁髷男性の唇が小さく動く。
「あの……?」
動きを止めた丁髷男性に瑠美が声をかけると、彼はにこりと微笑み、何事もなかったかのように話し始めた。
「では、遭遇した魔物について教えてください」
「――急に黒い着物を着た人が現れて、こう、刀で河童の首を切り落として……」
瑠美の話を聞きながら、着物の人が現れたあたりで、丁髷男性は眉間に皺を寄せる。
「……ちなみに、河童の死骸はどこに?」
瑠美は首をふりながら公園の入り口の方へ指をさす。
「わかりません。急に風が吹いて大量の葉っぱで見えなくなって、びっくりして一瞬目を閉じたら、目の前から消えていたんです!」
「……」
丁髷男性が指を顎にあて考え込む様子に、瑠美が慌てて口を開く。
「嘘じゃないです、ほんとに刀を持った着物の人が魔物を倒したんです!」
「あの、私も見ました」
私がそう言うと丁髷男性と目が合ったので、こくこくと頷く。
「……ちなみに、その着物を着た人は何か言っていましたか?」
「いえ、魔物討伐隊の方かと聞いたんですけど何も答えてくれなくて……」
言いながら瑠美は私に視線を向ける。
「……何も教えてくれないまま、目の前から消えました」
とっさにそう答えてから、私の体質について知っていそうだったことを言うべきだったか、今からでも言うべきか一瞬悩んだ。
だけど、按田さんや小鳥遊さんですらわからなかったことを、この人たちに話したところでわからないだろう。
それに正直疲れもあって、これ以上長々と話し込みたくない気持ちもあった。
「そうですか……。もし他にも何か思い出したことがあれば、こちらに連絡をください」
「……」
瑠美の何か言いたげな視線に気づかないふりをして、丁髷男性の名刺を受け取る。
名刺には『関東第二十三エリア魔物討伐隊支部 長瀬武蔵』と書かれていた。
魔物討伐隊って、エリアでわかれてるのか。
「私たちを助けてくれた人は、魔物討伐隊の人ではないんですか?」
私が名刺を眺めていると、瑠美が丁髷男性に質問した。
「少なくとも、我々魔物討伐隊の隊員が自ら討伐したという報告はありません」
―――――
駅までの道のりを、二人並んで歩く。
どちらも口数は少なく、それでも不思議と会話は途切れることなく続いた。
お互いがあえて触れないようにしているのか、仕事の話や最近流行ってる曲など、魔物とは関係のない話をしていた。
駅に着くと、それまでの話を切り上げた瑠美が心配そうな顔で私を見た。
「……未来、あの着物を着た人に何かもらってなかった?」
……そういえば。
こくりと頷き、私は鞄に突っ込んでいたそれを取り出す。
「え……、なにそれ……」
私の手の中にあるものを見て、瑠美がどん引いた表情をした。
それもそうだろう。私もすごく不気味だと思う。
着物の人から渡されたのは、真っ黒の人形だった。
黒い布で作られた、十センチから十五センチくらいの人形。
粗い生地で作られているからか、手触りはがさがさしていてあまり良くない。目も鼻もないのに、頭らしき位置にはふぁさふぁさの黒い髪の毛だけは生えている。
ぶっちゃけ、呪いの人形にしか見えない。
だけど、着物の人はこれを『お守り』だと言っていた。
それを瑠美に伝えると、引き攣った表情のまま私を見つめる。
「お守り……呪いの人形じゃなくて? ほんとに大丈夫?」
「……たぶん」
大丈夫、だと思う。
じっと人形を見つめて、あの時のことを思い出す。
『今のままだと、魔物がよってきて大変なんじゃない?』
着物の人はそう言っていた。
私が魔物に遭遇しやすい理由を知っていて、これをお守りとして渡したのであれば、何かしらの効果があるんじゃないかと思っている。
今まで原因がわからず、対策もわからなくて、いつまでこの状況が続くのかとずっと不安に感じていた。
だから私はいっそのこと、期待半分、疑い半分で、この人形を信じてみることにしたのだ。
――信じはじめたところ、だったのだが。




