12.夢の中
その日、久しぶりに夢を見た。
「いってきます」
笑顔で仕事に出ていく父。
「未来、今日はお母さんと公園で遊ぼっか」
笑顔で私を見下ろす母。
……まだ、家族が幸せだった頃の思い出だ。
三人で食卓を囲み、皆んな幸せそうに笑っている。
突然、パチリと電気が消えた。
私は家の前に立っていた。
色の薄くなった葉が雨に打たれ、ひらひらと地面に落ちていく。
湿気でベタつく空気が不快で、放り投げるように傘を傘立てに突っ込む。
玄関を上り、まっすぐリビングへ向かう。
少し空いた扉の隙間から聞こえてくるテレビの音。
いつものように、こちらに背を向け酒を飲む父の姿。
私がリビングに足を踏み入れると、ゆっくりと父がふり返った。
……父と目が合うのは何年ぶりだろうか。
目が合っているはずなのに、その瞳の焦点は揺れていた。
「未来、夢はあるか」
父の声は、こんなに低かっただろうか。
背中にじっとりとした汗が流れる。
続く沈黙の中、私は吸い寄せられるように、じっと父の口元を見つめていた。
「――未来、やりなおそうか」
何を言っているのか、理解できなかった。
ふと視界に入ったのは、父の座っている座布団のすぐ隣。父の仕事道具だった、錆びた出刃包丁が置いてある。
――ああ、限界かな。
テーブルの上にあるのは、お酒の缶と母の写真。
ゆっくりと父に視線を移す。
目が合った瞬間、身体が動いていた。
家を飛び出してからの記憶はあまりない。
気づけばシャワーのような雨に打たれ、全身濡れ鼠になっていた。
目を覚ました時の気分は最悪だった。
電気をつけっぱなしで寝てしまっていたようで、眠りが浅かったのか体が重い。
「……さいあく」
思い出したくないこと、思い出しちゃった。
顔を洗い口をすすぐと少し気分がさっぱりした。
コーヒーを飲もうとお湯を沸かす。ぐつぐつと音を立てて立ち上る湯気をぼうっと眺める。
家を飛び出した私はホテル暮らしを一ヶ月した後、親友から不動産関係の知り合いを紹介してもらった。
地元から離れて田舎の方で一人暮らしがしたくて、勧められたのが今のアパートだ。
バイト先も無事見つかり、夜勤のコンビニ店員として働き、気づけばこの町に来て二年以上経っている。
父があの後どうしたのかは分からない。たぶん、生きてるとは思う。
父のことが気にならないといえば嘘になるが、会いたいかというと……分からない。
生きているのなら、それでいいとも思っている。
それに今、異世界にいる私は、私が逃げた父と会うことはないだろう。
……そういえば、この世界の『父』や『親友』は、どうしてるんだろう?




