2話 不遇盗賊
「そんなに落ち込まないでよ。ご飯おごってあげるからさ」
「とは言ってもさぁ……」
せっかくの異世界、せっかくの人生2週目。
リーダーを避けるつもりが、結局リーダーになった挙句、最弱ステータス。
こんなことならキュエル様に強力な魔法をもらっておけばよかった。
「ほらほら、どれも美味しそうでしょ。私のおすすめはカラーイライスね」
「ありがとうチデル。おかげで少し元気が出たよ」
俺たちは今、ギルドの酒場で休んでいる。ここでは冒険者に対して、1割引きをしてくれる。
お金を稼ぐ手段が今のところ無い俺にとって、ありがたいサービスだ。今回はおごりではあるのだが……
「とりあえず、パーティメンバーを集めないといけないのか」
「パーティリーダーは攻撃スキルを自力習得ができないからね。依頼を受けるなら最低1人は仲間を確保しないといけないよ」
「誰にしようかなー。魔法使いと僧侶は絶対に欲しいよなぁ……」
異世界を冒険するにあたり、魔法は使いたい。パーティリーダーであれば仲間に入れるだけで可能だ。 魔力がないから使えないのが玉に瑕……
ふとチデルの顔を見てみると、少し不満そうだった。
「どうしたんだ? なんか不満そうだな」
「だって、欲しいメンバーに盗賊がなかったから……」
「もしかして、パーティに入ってくれるのか!」
これは思ってもみない幸運だ。
チデルは基礎ステータスの配分がいい。盗賊として大切そうな素早さも高く、この世界において必須級の魔力も十分高い。それ以外の面においても平均以上と仲間にするなら理想的なステータスだ。
「入ってくれるなら大歓迎だ! でも、本当に俺のパーティでいいのか?」
「ここまで来て、ほっといておくのも酷だしね。それに、ソロで活動するのにも限界を感じてきてたから」
「じゃあ決まりだな。俺のパーティにようこそ! といっても、どうやってメンバー登録するんだ?」
「メンバー登録はオーターを使って出来るよ」
そういわれてオーターを開くと、メニュー画面に“パーティメンバー”という欄があった。開いてみるとパーティメンバーが追加されそうな欄と、“パーティメンバーの追加”という文字が出てきていた。
押してみたら、カメラモードに切り替わった。
「カメラモードにいったら、私のオーターに映ってるPLコードを読み込んだら登録完了だよ」
「RIMEの友達追加みたいだな」
読み込んでみると、パーティメンバーの欄にチデルが追加されていた。
<名前>チデル
<職業>盗賊
<ステータス>
魔力 A
力 B
魔法力 B
防御力 B
素早さ S
<隠しステータス>
運 E
器用さ D
度胸 B
リーダー適性 C
仲間になれば、隠しステータスを見ることができるのか。
そんなことより、チデルの隠しステータスは低すぎやしないか?
基礎ステータスだけを見れば強そうなのに、隠しステータスを見ただけで残念感が漂ってきた。
いや、大丈夫だ。隠しステータスというぐらいだから、戦闘にはあまり関係がないのだろう。
「よし、これでパーティ結成だね。それじゃあ、明日に備えていっぱいご飯を食べよう! お水もってくるね」
そんな俺の些細な不安とは裏腹に、チデルはとても楽しそうだった。
「お水持ってきたよ……きゃあ!」
水を持ってきたチデルは、またバナナの皮で滑っていた。
……大丈夫だよな?
翌日。
俺たちはギフトショップに来ていた。
ここでは、一通りの衣類や武器を取り揃えてあるらしい。
今までずっと学ランだったからな。スキルを使うにあたり、動きやすいほうがよいだろう。
それに、魔力が無い俺にとって、武器となりうる剣も買っておきたかったからな。
「着替えてみたんだが、どうだ?」
「うん、変わった服を着た少年から、半人前の冒険者になった感じ」
「それは褒めてるのか?」
一通りの装備を揃えた俺たちは平原にやってきた。
「ここにはスライムが多く生息しているよ。駆け出しはここでスキルの練習をするんだ」
スキルとは、体内にある魔力を消費して行う攻撃や防御、サポートのことを指す。スキルの解放条件は職業によって異なり、盗賊はスキルを使った回数らしい。
パーティリーダーはというと……
“パーティメンバーを増やす”
スキルが5個あるので、5人仲間にする必要があるのだろう。
昨日、チデルを仲間にしたことで1つスキルが解放された。
その名も“スキルコピー”。
職業説明の時に言っていた、メンバーのスキルが使えるというものだ。
「じゃあ、スキルの練習をしてみよう。まずは、スキルの基本からね」
「お願いします」
「スキルを使うときは、基本的にはスキル名をいう必要があります。パーティリーダーのスキルコピーみたいな1部の例外は言わなくてもいいけどね」
「それじゃあ、どうやって発動するんだ?」
「スキルコピーの場合は、メンバーの使いたいスキル名を言えば発動できるね」
スキル発動の時にいちいちスキルコピーなって言ってられないからな。
「それじゃあ、実際にやってみよう」
「よし、どんとこい!」
「最初に教えるのは“スナッチ”だよ。これは盗賊スキルのなかで唯一の魔力を消費せずに行える攻撃手段だよ」
「唯一ってことは、これ以上攻撃技はないってこと?」
「魔力を使わないものだとそうなるね。他には“隠密”や“危機感知”みたいなのがあるけど、攻撃向きじゃないから」
やっぱり、この世界は魔力なしには厳しい。
とはいえ、魔力がなくても使えるスキルがあるのはありがたい。
「スナッチは相手のスキルに使うはずだった魔力を奪って、1度だけ相手のスキルを自分のものにするスキルだよ」
相手の魔力を奪って自分のものにするスキルか。
「強くね?」
「実際強いよ。ただ、このスキルは相手の油断や隙を突くスキルだから、警戒されたら魔力を奪えないんだよね。どうしても奪いたければ、魔力を使う必要が出てくるけど、相手から奪う魔力以上の魔力がかかるから、やめたほうがいいかな」
「ふむふむ」
「それに、自分の扱える魔力量を超えても失敗になっちゃうんだ。要するに相手の大技は奪うのは難しいってことだね」
まぁ、いつでもなんでも奪えたらこちらの一方勝ちになっちゃうからな。
だが、魔力を消費する必要が無いと考えれば破格の性能だ。
そして、気になっていることがもう1つ。
「魔力を奪うスキルだったら、相手のスキルにこだわる必要はないんじゃないのか?」
相手の大技を盗めないのなら、奪った魔力を自分の技の糧にしたほうがいいような気がするのだが……
「魔力というものは不思議でね、1度使い方が決まった魔力はその使い方でしか使えないの。まぁ、そのおかげで本来であれば使い方の分からないスキルを使えるわけなんだけど……」
魔力やスキルって複雑なんだな。
でも、そうやって考えればパーティメンバーのスキルをすべて使いこなせるパーティリーダーってすごいんじゃね?
まぁ、使いこなせてないのが俺なんだが……
「それじゃあ実践に……どうした?」
なにやら難しい顔をしているチデルに俺は問いかけた。
「そういえばなんだけど……私、奪われるようなスキル持ってないんだよね」
「そうなのか!?」
「一応、魔力を使うスキルはなんでも奪えるよ。でも、盗賊スキルは奪った感が湧くようなスキルがないんだよね」
なんという誤算だ。
このままでは、青空の下で授業を受けただけになってしまう。
「……今日のところはスライム退治でもしよっか」
「あ、ああ。剣の切れ味も確かめておきたかったからな……」
「あそこに見えるのがスライムだよ」
「へぇ、ピンク色なのか」
イメージは水色だが、ピンク色もありではある。
「スライムは魔法耐性がとても高いのが特徴だね。小さいスライムでも、中級魔法ぐらいなら余裕で耐えてくるから。その分、打撃や剣みたいな攻撃はよく効くから、剣の相手にはぴったりだよ」
「あんな大きさで中級魔法を耐えるのか」
中級魔法がどの程度か分からないが、すごいことは間違いない。
「じゃあ、私がお手本を見せてあげるね。スライムは自分への殺気に敏感だから、なるべく殺気を殺して近づくのがコツなんだ」
そういってチデルは歩き出した。
スライムに近づくチデルの足音が聞こえない。黙々と近づいていくその姿はまるで熟練の暗殺者のようだった。
スライムはチデルに気づいていない。そのまま、タガーを構えて……
「わぁ!」
石につまづいて転んでいた。
……いや、普通そこで転ぶか?
スライムはびっくりして逃げちゃったし。
「いたた、次こそは……うわっ!」
近くにいた別のスライムを狙うも、また石で転んでいた。
俺はチデルの隠しステータスを思い出していた。
<隠しステータス>
運 E
器用さ D
度胸 B
リーダー適性 C
もしかしなくてもこのステータス、めちゃくちゃ重要じゃね?
隠しステータスだから気にする必要はないと思っていたが、現にチデルはスライムを取り逃がしている。
「チデルってさ、魔物の討伐数ってどれくらい?」
「討伐数は……あれ? 考えてみると、私自身が討伐した数ってほとんどないかも」
「それなら、今までどうしてたんだ?」
「今までは、助っ人を募集してる人のパーティに参加してたかな。クエストが終わった後で正式加入しようとすると、必ず断られたけど……」
チデルは無自覚だが、チデルは基礎ステータスの高さを隠しステータスの低さで潰している。
いわば、隠しステータスの高さを基礎ステータスの低さで潰している俺の逆バージョン。
女神様のいたずらか知らないが、本当にどうしよう。
今のパーティで魔王討伐を考えても絶対に無理なんだが……
そんな俺の悩みを知らずに、チデルはスライム討伐に励んでいた。
「さぁ、次は率の番だよ」
「次もなにも、1体も倒してねぇだろ」
結局、チデルはスライムを倒すことをあきらめて、俺にバトンタッチしてきた。
「ほら! あそこにお手軽そうなスライムがいるよ」
「確かに、ちょうどよさそうな大きさだな」
「ファイトだよ! 殺気はうまく隠してね」
殺気を隠すというのは簡単ではないが、スライム程度に殺気を出すのも難しい。
そう思いながら俺は剣を抜き、スライムに近づいていった。
そして……
「せいっ!」
「ぬ!?」
スライムの討伐に成功した。
……案外かわいい鳴き声を出すもので、少し罪悪感が芽生えた。
「おめでとう! 初めてなのにすごいね!」
「いや、スライム討伐なんて基礎中の基礎だろ」
「それでもすごいよ! 初めての人だと魔物に怯えてできない人も多いのに!」
チデルはこれでもかというほど褒めてくれる。
そんなチデルの目を見てみてみると、瞳が赤くなっていた。
「なぁ、チデルの目ってそんなに赤かったか?」
「!? いや、これはその……」
チデルは慌てて目を隠した。
「なんで隠すんだよ。きれいでいいのに」
「! あ、ありがとう。私の目はちょっと特殊で、たまに赤くなっちゃうときがあるの。それがコンプレックスなんだけど……」
「いつもの紫の目もいいけど、赤も似合ってると思うぞ」
「そんなこと言われたのは初めてだよ」
「そうか?」
きれいだと思ったんだけどな。
俺もそんな特殊な体が欲しかった。
髪の色が変わるとか、性格が変わるとか。
コンプレックスの人を見て言うのは失礼かもしれないが……
「じゃあ、今日のところは引き揚げよっか。本当はスキルの練習をしたかったんだけど……」
「出来ないもんはしかたないだろ。街で魔法使いにでも声を掛けてみるか」
「そうだね。じゃあ、このスライムの死骸を売ってご飯を食べに行こう」
モンスターの死骸はギルドが買い取ってくれる。スライムはそこらへんにいる割に多くの薬に使われるため、そこそこいい値で買い取ってくれるそうだ。1体だけでも今日の晩飯代の足しにはなるらしい。
「これでよしっと。じゃあ、行こうか」
「おう」
「待ってください」
ギルドに行こうとする俺たちを呼び止めたのは……
「そのスライムを売った代金を私に分けてくれませんか? もう1週間水だけ生活なんです」
地面に倒れているぼろぼろの服に身を包んだ女の子だった。




