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3話 脳筋魔法使い

 「えっと……とりあえず君の名前は?」

 「わたしのなまえはましゅです。しょくぎょうはまほうつかいです」

 「すまん、今聞いた俺が悪かった。口にあるものを飲み込んでから喋ってくれ」

 今俺たちは、青色の髪のショートヘアが特徴的で、チデルより幼く見えるマシュと名乗った女の子と一緒にご飯を食べている。

 「先に自己紹介しておくね。私の名前はチデル。呼びやすい呼び方で呼んでいいよ」

 「俺は小鳥遊率だ。よろしくな」

 「ふぅ。すいません、おかわりが欲しいのですが……」

 「えぇ! まだ食べるの!?」

 チデルの反応は当然で、カラーイライス5杯、ステーキ4枚、サラダ3皿という尋常じゃない量をマシュは1人で食したのだ。そのうえおかわりを頼もうとするのだから、さすがに店員さんに断られていた。

 「えぇ。なにせ1週間なにも食べてませんでしたから。食べれるときに食べておかないと」

 「それにしたっておかしいだろ。お前のその体のどこに入ったんだよ」

 「失礼な。私は17歳ですよ。もう大人と言っても過言ではないんですから」

 過言だろ。

 この世界では18歳で成人を迎える。だから、こいつは大人ではない。

 だが……

 「私この子より年下なの!? 見た目詐欺だよこんなの!」

 「俺がこんなちびより年下なんて!? 何かの間違いだろ!」

 「おい! さっきから大人にとる態度じゃないですよ!」

 じゃあ、子供にご飯を奢らせるなよ!

 だが、一応年上なので敬語くらいは使わないと失礼なのも事実ではある。

 「年齢詐欺はいったん置いておいて。マシュさんはなんであんなところに倒れていたんですか?」

 「詐欺ではないのに。まぁ、いいです。話してあげましょう」

 そういって、マシュはあの時の経緯を話してくれた。

 「私は見ての通り貧乏なんですよ。なので、日々の生活に苦労してきました。衣類はこんなぼろぼろのものしか着れず、食はそこら辺の雑草、夜は野宿でやり過ごす毎日」

 「なんていうか、大変だったんですね」

 「そうなんです! こんな生活に耐えれるひとなんているわけがありません!」

 「急に大声出すなよ! ……出さないでくださいよ」

 「よろしい。そこで私は一攫千金をするべく、魔王軍幹部の討伐を決心しました」

 

 魔王軍幹部。

 魔王の忠実な部下の中で、優れた者に与えられる称号。

 そんな思い付きで倒せるわけがないと思うのだが……

 「魔王軍幹部を倒すっていっても、どうやって倒すつもりなの? それに、こんな駆け出しの街に幹部がくるはずないよ」

 チデルの言う通り、こんな場所に幹部が来るわけない。来ていたら俺たちは全滅しているであろう。

 「ふっふっふ。普通はそうですが、私は耳寄り情報を得ました。なんと、このあたりで“世界の番人”が目撃されたらしいんです」

 なんだよその二つ名。敵のくせにめちゃくちゃかっこいいじゃん。

 「本当に!? だったら、今すぐ逃げないと!」

 「なぜ逃げるんですか? せっかくのチャンスなんですよ?」

 「待て待て待て」

 俺は二人に制止の声を掛けた。

 「まだ話の最中なんですが? 邪魔をしないでください」

 「邪魔するつもりはないですよ。まず、魔王軍幹部を倒そうとしていること自体がおかしいと思います」

 「おかしくはないでしょう。勇者みたいな人は挑みにいくのですから」

 「マシュさんは勇者じゃないでしょ。次に……」

 「? 何です?」

 「そもそも世界の番人って誰ですか?」

 俺の発言に2人がぎょっとした。

 「もしかして、魔王軍幹部を知らないの!? そんな人間がいるなんて!」

 「ふっ、やっぱり子供には少し刺激的すぎたか」

 「そんなこといったらチデルも子供だし、知らない人がいてもいいだろ!」


 「結局、世界の番人はなんなんだよ」

 「世界の番人は、世界中を縦横無尽に巡っているの。遭遇したら最後、骨も残らないことから世界から追放する力を持つと聞いているわ」

 ……やばくね?

 そんな生物が存在するのも驚きだが、マシュがそれに挑もうとしているのにはもっと驚きだ。

 「意外と博識ですね。子供なのにえらいです。相方はまるで学がなってないようですが……」

 「あ、ありがとうございます?」

 いちいちむかつくが、我慢だ。

 「その目撃情報を頼りに1週間探し続けましたが結局見つからず、空腹で死にそうなところにあなた達を見つけました」

 ……なんて無謀なことをしてるんだろう。

 1週間探し続けた結果が子供に奢られる夜ご飯である。

 ……いや、恥ずかしくないのか?

 「でも、どうやって勝つの? 普通に戦ってもマシュさんが負けると思うんだけど……」

 その通りだ。実物を見たことがないとはいえ、説明からしてマシュが勝てる相手とは思えない。

 「仕方ないですねぇ。私の完璧な作戦を教えてあげましょう」

 こんなにも自信があるのだ。

 さぞすごい作戦があるのだろうが……

 「まず、初級魔法を打ちます」

 「うん」

 「それで死ななければ、中級魔法を打ちます」

 「うん?」

 「それでもダメなら上級魔法を打ちます」

 ……作戦ですらねぇじゃねぇか。

 「えっと……さすがに無理じゃない? 世界の番人って魔法耐性がめっちゃ高いみたいだし」

 「まぁ、普通の魔法使いならそこで諦めるでしょう。ですが! 私は違います!」

 そういって立ち上がり、大声で言い切った。

 「私の魔法は誰よりも強いです! 私の力をもってすれば、世界の番人を逆に世界から追放させることができるでしょう!」

 ……発想といい、発言といい、こいつただの脳筋だ。

 「ふっ」

 誰かが噴き出した。

 マシュがあまりにも大きな声で言ったものだから、ギルドにいた全員に聞こえていたんだろう。

 笑ったのは1人だった。

 だが、トリガーになるには十分だった。

 「「「あはははははは!!」」」

 ギルド中で笑い声が上がった。

 「お前みたいなちんちくりんが世界の番人を? 無理に決まってんだろ!」

 「世界の番人を誘惑でもする気なら、もっと華やかな服を着ろよ!」

 「赤ちゃんは、家に帰ってミルクでも飲んでろ!」

 次々とからかいの声が上がり始め、マシュは下を向いてしまった。

 チデルもマシュがからかわれて明らかに不機嫌そうだ。

 俺も大人じゃなかったのかとからかってやりたかったが、マシュの顔を見てやめた。


 その顔が、とても悲しそうだったからだ。


 「やめろよ」

 「あ? なんだと小僧?」

 「リ、リツ?」

 自分でもお人よしだなとは思う。

 だが、悲しそうな顔をしてる人を放っておくことはできない。

 「目標は高いほうがいいだろ。人の努力を笑って、お前何様だよ」

 「おめーこそ何様だよ。聞いたぜ、お前魔力のないパーティリーダーなんだって? そんな奴がおれに歯向かってくんな!」


 前世でもこんなことはよくあった。

 上級生と喧嘩しているクラスメイトの仲裁。

 委員長として何年も押し付けられてきたんだ。

 今更こんなチンピラにびびるはずもない。

 「ごふっ!」

 案の定殴られた。

 だが、いつも通りの流れである。

 「率! あんた私のリーダーに……!」

 「お前も参戦するのかチデル? 魔物の討伐も出来ないような奴が俺に勝てるとでも?」

 「いいんだチデル。これでいい」

 「でも……!」

 殴られればこっちのものだ。

 ……それにしても超痛い。気を抜くと気絶しそうだ。

 気絶する前に済ませよう。

 「ギルドの職員さーーーーーん!!!!! この男が俺に暴行を加えてきましたーーーーー!!!!! これって問題なんじゃないんですかーーーーー!!!!!」

 「な!?」

 前世でもよく使った先生にお任せ戦法。これにはずいぶん助けられた。

 すると、ギルドの職員が駆けつけてきて……

 「大丈夫ですか? あなたですか、暴行をしたというのは? もしそうなれば、警察を呼ばなければいけなくなりますが……」

 「い、いや! 俺はそんなことしていない! こいつが勝手に……!」

 「これが証拠のオーターです」

 そういって俺はオーターを差し出した。

 前回カメラ機能があることを知り、録画ができるのではないかと思っていたが、試しておいて正解だった。

 「確かに殴っていますね。証拠提出ありがとうございます。では、後は警察に任せましょう」

 「おい、待てよ! ちょっとしたじゃれあいだろ! そんなマジにならなくても」

 「マシュの目標はガチだったんだ。人の目標を笑うやつと俺は仲良くできないな……お! 警察が来たみたいだな」

 さっきまで俺もバカにしてたが、助けたからチャラということにしよう。

 「くそ! 後で覚えておけよ!」

 ありがちなセリフを吐きながら男は連行されていった。

 「すごいよ率! あんな大男相手に怖気づかないなんて!」

 「当然だ。ああいうのはまだ対策が簡単なほうだからな」

 「あ、あの……」

 どや顔をしている俺のところにマシュが声を掛けてきた。

 「私のためにありがとうございます。それと、さっきまで生意気な態度をとってすいませんでした。これからは敬語を使わなくてもいいですから」

 「なんだよ。意外とあっさり引き上げるじゃん」

 「助けてくれた人に恩を忘れないことは大事ですから」

 じゃあ、ご飯を奢ってやった俺たちへのあの態度は何だったんだと言いたい。

 「それから、もしよければなんですけど。私を、その、パーティに……」

 マシュの言葉を聞き終える前に。

 俺は安心感と痛みから意識を手放してしまった。


 「あ、起きましたか?」

 目を開けるとそこにはマシュがいた。

 「あれ、ここはどこだ?」

 「近くの宿です。ギルドの職員さんが手配してくれたんですよ」

 俺は気絶したあと、翌日の朝まで眠っていたらしい。

 「お! 目が覚めたんだね」

 「おはようチデル」

 「あんまり無茶しないでよ。すっごく心配したんだから」

 パーティメンバーに心配をかけさせるとは……

 俺もまだまだだな。

 ……いや、やりたくないのだからまだまだでいいじゃないか。

 前世の癖が抜けないな。

「それじゃあ起きるか……いてててて!」

「大丈夫ですか? 一応痛み止めは飲ませたんですが」

 痛み止め貫通とか、どれだけ強く殴ったんだよ!

 ……いや、俺の耐久が低いだけか。

 「あれ、俺のオーターはどこだ?」

 「ここにありますよ」

 「ああ、ありがとう……あれ?」

 パーティメンバーの人数が増えている。

 確認をしてみると……


 <名前>マシュ

 <職業>魔法使い

 <ステータス>

 魔力 SS

 力 SS

 魔法力 SS

 防御力 A

 素早さ D


 <隠しステータス>

 運 C

 器用さ B

 度胸 C

 リーダー適性 D


 「おい。これは一体どういうことだ?」

 「その……気絶した時にオーターがついたままだったので、そのまま勝手にメンバー登録をしました」

 「……は?」

 勝手にメンバー登録?

 そういえば、俺が気絶する前にパーティにとか言いかけてたな。

 「ふつう、パーティリーダーの了承を得るだろ。何勝手にやってるんだよ」

 「だって、チデルの了承は得ましたし……それに、断られそうだと思ったから……」

 よく分かっているじゃないか。

 勝手にメンバー登録をする脳筋だ、絶対ろくなやつじゃない。

 「ちゃんと役に立つように努力します! ですのでパーティに置いてください!」

 ちゃんと断ろう。

 「ダメ……ですか?」

 ちゃん……と……

 「分かったよ。ただし、絶対に迷惑をかけるなよ」

 「! はい!」

 断ることはできなかった。


 身支度を済ませて宿から出た俺たちは、ギフトショップに来ていた。

 「マシュにはこのローブが似合うと思うんだよね」

 「私お金持ってないので買えませんよ?」

 「いいのいいの。率が奢ってくれるから」

 「そういうことでしたら遠慮なく」

 「遠慮しろよ! 俺全然金持ってないんだぞ!」


 マシュの服を買い終えた俺たちは昨日の平原へと向かった。

 「じゃあ、スナッチの練習ね! マシュが魔法を使うと思ったタイミングで“スナッチ”って唱えると上手くいくよ」

 「取られるとわかっているとやりにくいですが、任せてください。とりあえず、初級魔法のファイアでいきます」

 そこで、昨日は出来なかったスナッチの練習をすることになった。

 「それじゃあ、行きますよ! “ファイア”!」

 「いくぜ! “スナッチ”!」

 俺がスナッチと唱えた後に、ファイアが出ることはなかった。

 ということは……

 「奪うのは成功だね。センスあるんじゃない?」

 「それで、ここからどうするんだ?」

 「そしたら、相手から奪ったスキルの名前を言えば使えるよ」

 「なるほど、それじゃあ……“ファイア”!」

 すると……

 「熱い熱い! なんでそんなに炎が出るの!」

 「知るかよ! おいマシュ! どういうことだよ!」

 「何慌ててるんですか? こんなの普通じゃないですか」

 これが普通?

 炎が出終わり、俺たちはマシュを問い詰めた。

 「おい、あれは本当に初級なのか? ここら一帯焼け野原になったんだぞ!」

 「はい。まぎれもなく初級魔法です」

 「本来初級魔法には殺傷能力が無いはずなんだけど……ちなみに、中級だとどのくらいの威力になる の?」

 「そうですねぇ……あそこの森一つ燃やせるんじゃないですか?」

 「じゃあ上級は?」

 「街が消し飛ぶんじゃないですか?」

 「分かった。指示が無いときは絶対に使うなよ」

 ただの脳筋じゃなくて、火力バカだったなんて……

 火力があるのはうれしいが、度が過ぎていると思う。

 「そういえば、マシュは杖を持たないの?」

 「はい。なにせ杖を買うお金がないんですから」

 「大丈夫? 反動がきつくないの?」

 「なぁ、反動ってなんだ?」

 また、俺の知らない要素が出てきた。

 「それも知らないのですか。なんというか世間知らずですね」

 「お前に言われたくねぇよ」

 「魔法を使うにはね、他のスキルを使うより複雑な手順を挟む影響で、魔法を使うときに体を大きく消 耗してしまうの」

 「魔法使いは大変なんだな。ちなみに、どれくらいきついんだ?」

 「初級魔法であればほぼ問題はないんですが、中級魔法になると明日の筋肉痛が確定します。上級魔法になると四肢がもげるような激痛に襲われますね」

 「怖すぎだろ」

 「でも杖を持てば、複雑な手順をある程度肩代わりしてくれるから反動が軽くなるんだよ」

 「じゃあ、マシュも持ったほうがいいだろ」

 こいつのバ火力なら初級で事足りるだろうが、万が一ということもある。

 「必要ありません。だって私にはこれがありますから」

 そういって見せつけてきたのは……

 「きれいに腹筋が割れてるね」

 「そうです。魔法の反動に耐えるべく、筋トレを欠かさず行っているので抜かりはありませんよ!」

 その外見からは考えられないほどの筋肉だった。

 「それ、本当に効果があるの?」

 「当然です。今であれば、上級魔法3発であれば反動なしで打てます! 見せてあげましょうか?」

 「ありがとう。絶対にいらない」

 ……俺は、この先の不安を考えないことにした。


 「せっかく3人になったんだし、このパーティ初めての依頼を受けようよ!」

 「いいですね。できるなら、私の超特大魔法を放てる依頼がいいです」

 そんな依頼があってたまるかと思ったが、口にはしない。

 確かに、普通に魔物を倒すよりは依頼を受けたほうがいい。

 だが依頼には危険がつきものだ。

 せめて回復役か盾役が欲しいところだが……

 そんなことを考えているうちにギルドに着いた。

 ギルドに入るとみんなが目をそらしてきた。

 まぁ、あんな騒動を起こした後なんだし当然だよな。

 しかし一人だけ、俺に近づいてくる男の子がいた。

 「あ、あの……」

 「?」

 緊張しながらも、大きな声で男の子は言った。


 「ぼ、僕を弟子にしてください!」

 「……え?」

 突然の申し出に俺は固まってしまった。

 「あなたですよね? 世界の番人を倒すっていうパーティのリーダーは……」

 「そうです。このリツこそが私と共に世界の番人を倒す男です」

 「待て。俺は別に世界の番人を倒すとは……」

 「やっぱりそうなんですね! ぜひ、僕をあなたのパーティで鍛えてください!」


 また一つ、厄介ごとが増える気配がした。


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