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1話 最弱リーダー

 「小鳥遊なんとかしろよ!」

 「小鳥遊くん助けて!」

 「頼んだ小鳥遊!」


 卒業式の前日、刃物を持った男が教室に現れた。先生は運悪く不在。そんな中、クラス全員が俺を見た。なぜ俺が見られているのか。理由は簡単だ。


 それはそう、俺が「リーダー」という立場だからである。


 俺こと小鳥遊率は小学1年生から現在に至るまで、学級委員長、部長、生徒会長とありとあらゆるリーダーポジションを押し付けられてきた。クラスメイトに聞けば「優しいから」、「まじめだから」みたいな理由で選んでいるらしい。

 リーダーという立場はなるのが簡単な割に忙しい。先生の手伝い、クラスメイトの指揮、代表者演説。挙げればきりがないが、普通に面倒くさい。先生は無茶ぶりをしてくるし、クラスメイトはいうことを聞かない、演説なんて誰も聞いてくれない。

 そんな生活に嫌気がさしてきた俺は、環境を変えようと思った。クラスメイトの誰とも被らないような地元で1番偏差値が高い高校を選び、死にもの狂いで勉強した。無事に合格した俺に、クラスメイトや先生が称賛の声を上げていたが、そんなのはどうでもいい。俺はこれでやっと自由になれると思っていた。


 それなのに、どうして刃物を持った男と対面しなければいけないのだろう。

 誰も動こうとはしない。

 先生もいない。

 男は興奮状態で話にならない。

 「どうして俺がこんな目に……」


 「お待ちしておりました」

 気が付けば、見知らぬ場所にいた。終わりの見えない空間、神々しいオーラを放つ目の前の女性。その女性は続けてこう語った。

 「小鳥遊率さん。短い人生でしたがお疲れ様でした。私はキュエル。死んだ人間を案内する女神です」

 「えっと、キュエル……様? おっしゃる通り俺は率ですが……」

 状況がうまく呑み込めていない俺だったが、キュエル様が事細かに説明してくれた。

 どうやら俺は、無謀に突っ込んでいった結果、刺されて命を落としたらしい。男は俺を殺してしまったことに動揺して動けなくなったそうだ。その後は、先生が警察を呼んで事件解決。死者は俺だけらしい。

 「1つ質問をしてもいいですか?」

 「ええ。1つといわず、何個でもいいですよ」

 俺は大事な質問をした。

 「ありがとうございます。……犯人は結局何がしたかったんですか?」

 急に中学校に押し寄せてきた不審者だ。何をしたかったのか気になるのは当然のことだろう。

 「そ、それは……」

 女神様が言い淀むほどの重い理由なのか。それだったら死んでしまうのも頷ける。

 「怒らないでくださいね? 犯行動機は1万円が欲しかっただけみたいです」

 ……え?

 「えっと……何て?」

 「犯人は、中学生を人質にして、先生たちから1万円を手に入れようと思ったみたいです。ですが、反抗してきた中学生がいたので咄嗟に殺してしまったと言っています」

 ものすごく軽い理由だった。俺は1万円のために殺されたらしい。「お金が欲しいなら銀行を襲えよ」という突っ込みはしないでおこう。してしまったら負けだ。

 「そんなに落ち込まないでください。神様たちは、無謀だったとしてもクラスメイトのために動いたあなたを評価しています。そこで、あなたに提案があります」

 はたから見ても落ち込んでいる俺に、キュエル様はほほ笑むように言った。


 「異世界に行ってみない?」


 キュエル様が言うには、異世界で体はそのままによみがえる。そこには魔王がいて、魔王討伐を目指して暮らすということらしい。

 「ゲームのような世界で魔王という共通の敵を目指し、仲間と共に切磋琢磨する。とてもすてきじゃないかしら?」

 確かに魅力的だ。俺もゲームは好きだ。レベルを上げてボスに挑む。時間はかかるが確実に強くなれる。そんなゲームの世界はリーダーの仕事で忙しかった時も、俺の心の支えになってくれた。

 ならば、答えは1つだろう。

 「それじゃあ、俺を異世界に連れていってください」

 「わかりました。それでは手続きに移ります。異世界に行くにあたって1つだけ、あなたに力を授けることができます。何をお望みですか?」

 なるほど、そんな手厚いサポートもあるのか。無人島ならば食料を持っていく俺だが、異世界は違う。異世界にいくなら強力な武器や魔法が欲しい。それを駆使して、強敵と戦う。そんな冒険をやってみたい。

 しかし、俺の頭に1つの仮説が浮かんだ。


 強力な力をもてば、勇者にさせられるのではないか?


 勇者になれば、強制的にパーティのリーダーになる。リーダーという立場で死んだ俺は、もうリーダーをやりたくない。せっかく人生をやり直せるかもしれないのに、同じ轍を踏みたくない。かといって、1人の冒険はさみしい。仲間とわいわいやっていきたい。

 ここで俺は、1つの名案が浮かんだ。


 「仲間をサポートできるような力が欲しいです」


 サポート能力。勇者や仲間を支える力。この力ならば、リーダーにならずに仲間の役に立てる。自分ながら、ナイスチョイスといえるだろう。

 「あなたの望みを承りました。望みを実現できるようにあなたに1つ、力を授けます。着いてから確認してください」

 その言葉と同時に俺の体が浮かんでいった。浮遊感が心地いい。これから俺の第2の人生が始まると思うとわくわくする。

 そんな俺に、キュエル様は声を高らかにしていった。


 「それでは、いってらっしゃいませ!」


 空気に触れたような気がする。風が切る音が聞こえた気がする。目を開けてみるとそこには、

 「きゃあ!」

 バナナの皮で滑っている女の子がいた。バナナの皮で滑る人なんて初めて見た。変かもしれないが、本当に異世界に来たような実感が湧いた。

 「あの、大丈夫ですか?」

 「いたた、うん。大丈夫だよ」

 俺より少し身長が低く、長い黒髪が特徴的だ。

 女の子に手を貸してあげると、女の子はにこにこしながら立ち上がった。

 「恥ずかしいところを見せちゃったね。私の名前はチデルだよ」

 「チデルさんですか。俺の名前は小鳥遊率です」

 「この辺りで聞かない名前だね。もしかして旅人さん?」

 「まあ、そんな感じです」

 チデルと名乗った女の子は、俺が旅人ということを知り、親切にこの街について教えてくれた。

 ここはスタダという街で、駆け出し冒険者が集うらしい。街の雰囲気も一昔前のヨーロッパといった感じだ。周りを見れば冒険者らしき人がおり、とても楽しそうにしている。

 ここで俺は、本来の目的を果たすことにした。

 「チデルさん。この辺りに冒険者登録ができる場所はありますか?」

 「敬語はやめてよ、私も使わないから。冒険者ギルドならあっちにあるよ。案内してあげる」

 チデルはそう言って走り出し、

 「きゃあ!」

 またバナナの皮で滑っていた。


 チデルに連れられて、俺は冒険者ギルドにたどり着いた。中には多くの冒険者がいてちょっと緊張する。

 「冒険者登録はあのカウンターにいる人に頼めばできるよ」

 「ありがとうチデル。助かったよ」

 「困ったときはお互い様だよ。せっかくだから一緒に行こう」

 チデルのおかげで、緊張がほぐれてきた。俺たちはカウンターへとむかっていった。

 「こんにちは、カレンさん。冒険者志願者を連れてきました」

 「こんにちは。冒険者登録をしたいのですが……」

 「はい、了解しました。お名前をうかがってもよろしいでしょうか?」

 「小鳥遊率です」

 「タカナシリツさんですね。では、こちらの端末をお渡しします」

 そういって、カレンさんは端末を手渡してきた。見た目はスマホのようだが、とても軽い。

 「それは、冒険者オートサポーター、略してオーターといって、あなたのステータスや職業、使えるスキルなどを確認できます」

 「私も持ってるから、どんな感じなのか見せてあげるよ」

 そういって、チデルは画面を見せてくれた。


 <名前>チデル

 <職業>盗賊

 <ステータス>

 魔力 A

 力 B

 魔法力 B

 防御力 B

 素早さ S


 数値ではなくランク表示なのか。それにしても、きれいなステータスだ。欠点という欠点が見当たらない。

 「こんな感じに表示されるんだな。職業は盗賊なのか」

 「そうだよ。戦うのはあまり好きじゃないからね」

 そんな話をしていると、俺のオーターから音がなった。

 「どうやら、職業適性検査が終わったようですね」

 「職業適性検査?」

 「オーターに備わっている装置でステータスやその職業に対する相性を検査して、1番あった職業を選んでくれる機能のことです」

 なるほど、そんな便利な機能があるのか。

 「結果を確認してみてよ。私とっても気になる!」

 チデルに急かされながら、俺はオーターの画面を見てみることにした。

 「なになに、“検査の結果、あなたをパーティリーダーに任命します”?」

 ナニコレ?パーティリーダー?

 「パ、パーティリーダー……」

 さっきまでにこにこしていたチデルも急に顔が曇った。

 「えっと……このパーティリーダーって職業は何なの?」

 俺の疑問に答えるようにカレンさんが口を開いた。

 「パーティリーダーはその名のとおり、パーティのまとめ役をする職業です。その職業についた人はパーティのリーダーとしてギルドに登録されます」

 つまりはこの職業になった時点で俺はパーティリーダー確定ってことか。

 ……ふざけてるのか?

 「この職業は、自身やパーティメンバーの隠しステータスやパーティランクの確認をすることができます。あと、この職業の最大の特徴としては、パーティメンバーの使えるスキルをすべて扱うことができるという点です」

 話だけ聞けば万能そうだが、絶対裏があるに決まっている。

 俺の嫌な予感は的中し、カレンさんは続けて言った。

 「欠点としては、隠しステータスであるリーダー適性のランクによって、能力が大きく左右されることです。それと、職業補正が乗らないため、本家よりスキルの威力や成功率が落ちることです」

 「詳しくお願いします」

 「隠しステータスについてですが、オーターで誰でも確認できるものが基礎ステータスです。先ほども話した通り、パーティリーダーの手を介さないと見ることができないのが隠しステータスです。運や器用さ、度胸などの項目があり、その中の1つにリーダー適性というものがあります」

 なんだよリーダー適性って。いらないだろその項目とも思ったが、絶対につっこまない。

 「適性が最高のSSならばメンバーのスキルをそのまま使えますが、最低のEだと10%程度まで威力が落ちます。一般的なBであれば、威力が50%程度になり、ぎりぎり実用的なラインです」

 よほどのカリスマじゃなければこの職業の最大の恩恵を受けれない。

 その段階で、この職業は欠陥なんじゃないのかとも思ったが、続きを聞くことにした。

 「次に職業補正についてですが、剣士であれば剣技のキレが増し、魔法使いであれば魔法の威力が上昇します。しかし、パーティリーダーはそのような補正が乗らないため、よっぽどのステータス差がなければ本家の劣化になってしまうんです」

 よほどのカリスマでも補正が乗らないから劣化になる。悔しかったらステータスで勝てよということだ。

 何度でも言おう、ふざけてるのか?

 「本来であれば、この職業はパーティを作成した際に、そのメンバーの誰かが何かの職業と兼任で担う職業なんです。この職業一筋になる人は過去の事例で1人も見たことがありません」

 なんてひどい特殊ケースだろう。もっとこう、「こんな高いステータス初めて見ました!」みたいな感じだったらよかったのに。それはそれで、リーダーになってしまいそうだが、そっちのほうが幾分かマシだ。

 「えっと、とりあえずステータスを確認してみれば?」

 今までずっと気まずそうにしていたチデルに言われてステータスを確認してみることにした。


 <名前>リツ

 <職業>パーティリーダー

 <ステータス>

 魔力 F

 力 D

 魔法力 D

 防御力 D

 素早さ C


「魔力F!? それ以外もほとんど平均以下って……」

 チデルの反応を見なくても分かる。絶対に低い。

 「……魔力Fってどれくらいですか?」

 「Fの人に今まであったことがないので何とも言えませんが、おそらく魔力がほとんど無いに等しいかと……」

 「……もう冒険者やめようかな」

 「諦めないで! まだ隠しステータスが残ってる……かも……」

 せめて言い切ってほしかったが、チデルの言う通りだ。

 俺は隠しステータスを確認することにした。

 <隠しステータス>

 運 S

 器用さ S

 度胸 S

 リーダー適性 SS

 「隠しステータス高!? しかもリーダー適性SSじゃん!」

 確かにチデルの言う通り、隠しステータスは高い。本当はいらないが、職業に適したリーダー適性もSSだ。

 だが……

 「たしかに、隠しステータスは高いですが、ここまで基礎ステータスが低いと……。特に、ほとんどのスキルで使われる魔力がFとなると、出来ることが無いに等しいですし……」

 この世界では魔力がスキルの源であるらしい。ならば、カレンさんの言うとおり、このステータスでは劣化どころか、超超劣化になるだけである。


 なりたくもないリーダーをやらされて、挙句の果てに低すぎるステータス。こんな俺が魔王討伐を目指すにはどうしたらいいか? 答えは決まっている。

 俺は心の中で呟いた。


 強い仲間が欲しい!!!!!


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