空中パイルドライバーの設計図。あるいは、大質量の逆襲
「キチ、キチチチチチチッ……!」
「ジジ、ジジジ――ッ!」
暗黒の虚空、そのあちこちから、上昇気流に身を任せて自在に飛行する影が、津波のように湧き出してきた。
体長1メートルを超える、カミソリのような羽を持った『飛行虫』の群れ。さらには、地底の特異な超音波を放つ巨大な『肉食コウモリ』の軍勢だ。
そいつらが、強酸の海をブチ破って降ってきた俺たちを「空から降ってきた肉塊」と認識し、一斉に牙を剥いて急降下してくる。
「くそっ、空中じゃ足場がねえ……! 迎撃できん!」
俺のすぐ近くで、ミニ・ラプトルの背中にしがみついたギルバートが、悔しげに結晶の針を鳴らした。いくら地上最強の盾を持っていようが、空中ではただの重い引きこもりだ。狙い撃ちにされればひとたまりもない。
「足場がねえ? ――だったら、お前自身を『足場(弾丸)』にしてやるよ、ギルバート!」
「何……!?」
俺は落下中の風圧をハックし、ムササビ飛行の角度を急調整。一気にギルバートの目の前へと滑り込んだ。
そして、第一層の蟻の要塞から強奪してきた『迷宮植物の根(強靭な繊維の糸)』を、ギルバートの体に目にも留らぬ速さで巻き付け始める。
「いいかギルバート、今すぐ体を丸めて結晶の盾を全方位に展開しろ! お前のその超硬度の針と質量を、この上昇気流の中にぶち込んだらどうなるか、見せてやる!」
「よ、よく分からんが……心得た!」
ギルバートがガチリと体を丸め、再びダイヤモンド並みの硬度を誇る結晶の球体へと姿を変える。
俺はその糸の端を両前足でガッチリと掴み、下からの猛烈な逆風(気流)を真っ正面から受け止めた。
狙うは、俺たちの真下から突き上げてこようとしている、飛行虫の巨大な群れ。
「ドブネズミ流生体力学・空中ハッキング――即席パイルドライバーの完成だ。逝ってよしッ!!」
俺は、ハムスターの本能的な瞬発力を全開にし、巻き付けた糸を、気流の渦に乗せて一気に「引き絞った」。
落下速度(重力加速度)× 突き上げる上昇気流の圧力 + 糸による遠心力。
3つのエネルギーが一点に集中し、丸まったギルバートの結晶球体が、まるで電磁砲から放たれた弾丸のような超流速で、真下へと射出された。
シュブゥゥゥゥゥゥンッッッ!!!
空気が爆ぜる。
超音速に近い速度で落下していった結晶のトゲの塊は、正面から迫っていた飛行虫の群れのど真ん中へと、容赦なく突き刺さった。
ブシャ、バキバキバキバキッ!!!
「キシャァァァッ!?」
「ジジ、ジジジ――ッ!」
衝突した瞬間、飛行虫たちの強固な甲殻が、ギルバートのダイヤの針によって木っ端微塵に粉砕される。一撃で数十匹の肉片が虚空に飛び散り、大裂溝に紫の血の雨が降った。
それだけじゃねえ。
ギルバートが虫どもを圧殺した衝撃の反動(作用反作用)を利用し、糸を握っていた俺たちの落下速度が一気に減速。気流をハックしたおかげで、俺たちはまるで目に見えない足場を蹴ったかのように、空中でふわりと体制を立て直すことに成功した。
「すごい……! 本当に空中を制圧しちゃった……!」
マヌケが目を輝かせる。
「へっ、物理の法則さえ分かってりゃ、空の上だろうがどこだろうが、俺たちのナワバリに変えられるんだよ」
糸を巻き取り、虫の死体を足場にして跳ね返ってきたギルバートを、空中キャッチして再びラプトルの背へと戻す。
だが、一息つく間もなく、大裂溝のさらに深い暗黒から、ヒュン……と不気味な「無音の風」が刃となって迫ってきた。
それは、これまでの羽虫どものような単純な特攻ではない。
明らかにこちらの動きを読み、気流を完全に支配した、高度な『三次元戦術』。
暗黒の風の向こうに、ギラリと光る無数の「小さな眼」が見えた。
上昇気流の嵐を、まるで自分の手足のように操り、自由自在に滑空するもふもふの影――。
「ちっ、お出ましじゃねえか。この大裂溝の本当の地代を握ってる、クソ生意気な空軍の頭領サマがよ……!」
俺はダイヤの牙をニィッと剥き出し、さらに深く、暗黒の縦穴の底へと視線を向けた。




