【間話】害獣の生存戦略シート、あるいはドブ底の回想
大裂溝(縦穴)へと真っ逆さまに突入し、狂暴な上昇気流と格闘している最中ではあるが、ここで一度、俺――「新井」というドブネズミの魂を持ったハムスターが、現在どのようなスペック(異常進化)を遂げているのか、前世の記憶と共に整理しておこう。
人間サマはよく「ステータス画面」だの「スキル」だのと言って脳内システムを喜ばせていたが、俺に言わせれば、そんなものは単なる『生存戦略のログ(環境ハッキングシート)』に過ぎねえ。
生きてドブ底を這い上がるための、現在の俺の設計図がこれだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 害獣覇王:新井の環境ハックシート
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【種族】
ジャンガリアンハムスター(中身:元・東京地下道のドブネズミ)
【固有装備】
・結晶質のダイヤの前歯
第一層の特殊な結晶成分を齧り取り、分子構造をハックして一生伸び続けるネズミの牙と融合させた。ダイヤモンド並みの硬度を誇り、あらゆる装甲や結晶の分子結合を噛み砕く、俺のメイン兵器。
【固有特性①】
・腸内環境ハッキング
食べたものの常在菌や毒素を腸内で強制ハックし、自分の肉体へ異常な耐性としてフィードバックする。現在は第一層の巨大ムカデの肉から得た「抗菌・耐酸の防皮(毛皮の耐酸性化)」が完了している。
【固有特性②】
・肉体スペックのオーバークロック(ハック)
ハムスター特有の「骨がないレベルの軟体性」や「夜通し走り続けるバグった脚力(回し車本能)」を、前世の戦闘経験で100%戦闘技術に変換する。
【現在の軍勢・リソース】
・マヌケ(荷物持ち兼副官。耐酸性ジャンガリアン)
・鉄棘のギルバート(最強の盾を持つハリネズミ将軍)
・ミニ・ラプトル(首の神経を物理ハックした特攻バイク)
・第一層で強奪した【高濃度蜜】(頬袋に満載)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 前世の回想:なぜドブネズミは最強のサバイバーなのか
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
人間サマは、俺たちの前世のことを「不潔な害獣」と呼んで忌み嫌い、あらゆる科学の粋を集めた兵器で駆除しようとしてきた。
だが、東京の地下道、厨房の裏、深夜のスクランブル交差点……。
あの光の当たらない地獄で生き抜くために、俺たちがどれだけの『インフラハック』を繰り返してきたか、人間サマはまるで分かっちゃいねえ。
「ネズミ捕りの粘着シート? あんなもん、一度かかった仲間のちぎれた毛や、近くの埃をわざと転がして撒けば、ただの『ちょっと歩きやすい絨毯』に早変わりだ」
「殺鼠剤(毒エサ)? 最初にほんのちょっとだけ齧って、体調の崩れ方を腸内で計算するんだよ。数世代もすりゃあ、どんな新型の毒素も栄養分に変える最強の腸内環境出来上がる」
人間サマが「ルール(法律や衛生)」という綺麗事で世界を作っているなら、俺たちはそのルールが届かない配管の隙間、システムのバグを突いて、美味いところだけを内側から齧り取ってきた。
正面から戦う高潔な騎士の精神なんて、ドブ底にゃ一ミリも落ちてねえ。
生き残り、飯を食い、繁殖し、ナワバリを広げる。
その泥臭いプライドだけが、今の俺の『結晶の牙』と『もふもふの肉体』を突き動かしている。
「ジャンガリアンハムスターだからって、カゴの中でひまわりの種を待つだけのマスコット人形でいられると思うなよ」
第一層の巨蟻の要塞を完全に齧り尽くし、全インフラを強奪した。
今の俺の群れ(もふもふ軍勢)は、ただの「餌」じゃない。
どんな過酷な環境も内側からバグらせて乗っ取る、最悪の害獣軍団だ。
さて、現在のスペックの確認はここまでだ。
足場のない暗黒の垂直大裂溝(第2章)。
下から迫り狂う飛行虫の羽音と、風を操るクソ生意気な「空軍の頭領」の気配が、すぐそこまで近づいている。
「野郎ども、ハッキングの時間だ。落ちながら、あの空軍のインフラを根こそぎ奪い取るぞ!」




