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インフラ強奪。あるいは、第一層からの大逆流ダイブ

「キチキチキチキチッ――!!」

部屋を埋め尽くす巨蟻アントの親衛隊どもが、自慢の大顎を鳴らしながら、津波のように押し寄せてくる。

ここは蟻の要塞の心臓部。彼らが命に代えても守るべき、黄金色の【高濃度蜜アント・ネクター】が山のように貯蔵された最重要の備蓄庫だ。

「ボ、ボス! 数が多すぎるよ! ギルバート将軍の盾があっても、これだけの数に囲まれたら、いつかはすり潰されちゃう!」

マヌケが特攻バイク(ミニ・ラプトル)の背中で悲鳴を上げる。

確かに、狭い通路と違って、この広大な空間での物量戦は蟻の独壇場だ。正面からバカ正直に戦えば、いくら最強の盾と牙があろうともジリ貧になるのは目に見えている。

だが、俺はニィッとダイヤの牙を剥き出して笑った。

「マヌケ、お前は本当にネズミの戦い方ってやつを分かってねえな。前世の東京の人間サマはよぉ、俺たち一匹一き(匹)を力で潰そうとして、いつも失敗してた。なんでか分かるか?」

俺はラプトルの頭を蹴り、蟻の群れの真っ芯へと突撃させながら叫ぶ。

「個体をいくら潰したところで、――『社会のシステム(インフラ)』そのものをバグらせなきゃ、ネズミの侵略は止まらねえんだよ!」

蟻という生き物は、完璧な階級社会であり、その統制はすべて「フェロモンという名の通信インフラ」に依存している。一匹の強力な指揮官が命令を出しているわけじゃねえ。システムで動いているんだ。

だったら、そのシステムをハックして、バグ(大混乱)を引き起こしてやりゃいい。

「ギルバート! お前の結晶の針を一本、俺の口に放り込め!」

「応ッ! 受け取るがいい、覇王ボス!」

ギルバートが背中の結晶の針を一本引き抜き、俺へと投げつける。俺はそれをガチリと口で受け止めると、手に入れたばかりの『ダイヤの牙』の硬度ですり潰し、体内で強引に代謝・変質ハックさせた。

狙うは、備蓄庫の天井を縦横無尽に走る、蟻たちが分泌した『超高濃度フェロモンの誘導管インフラ』。

「お前らの通信回線、俺の牙で物理的にシャットダウン(切断)してやるよ!」

ラプトルの脚力を利用して天井へと跳躍した俺は、ダイヤの牙をその誘導管へと深く突き立て、一気に引き裂いた。

ブシャァァァッ!!!

管から溢れ出たのは、通常の数百倍の濃度を持つ「敵襲」「退却」「女王死す」のフェロモンがデタラメに混ざり合った、最悪の通信ノイズ(バグ液)だ。

それが、下にいる数千匹の親衛隊たちの頭上へと容赦なく降り注ぐ。

「キチ……ッ!? キチチチチッ!?」

さっきまで完璧な規律で動いていた蟻の軍勢が、一瞬にしてピタリと動きを止めた。

フェロモン通信が完全に混線し、隣にいる仲間が「敵」に見え、同時に「退却しろ」という矛盾した大音量の命令が脳内に直接響いている状態だ。

パニックは一瞬で伝染した。蟻どもは互いに大顎を剥き出し、身内同士で凄惨な殺し合い(同士討ち)を始め、備蓄庫の中は一瞬で阿鼻叫喚の地獄絵図へと化した。

「よし、通信障害ハッキング成功だ! 野郎ども、蟻どもが自滅してる間に、あの黄金の蜜を根こそぎスカベンジ(強奪)しろ!」

「うおおおっ! 持ちきれないくらい集めるよ、ボス!」

マヌケたちハムスター軍団が、パニックに陥った蟻の隙を縫って、頬袋がはち切れんばかりに黄金の蜜を詰め込んでいく。ハムスターの頬袋の伸縮性は異常だ。群れ全員の頬袋を使えば、備蓄庫の財産の大半を胃袋インフラに収めることができた。

だが、備蓄庫の床が、ゴゴゴゴゴ……と激しく震え始める。

さっきブチ破った強酸の濁流が、この部屋の底の泥を急速に溶かし、地盤沈起(沈下)を引き起こしていたのだ。

みしみし、と床の泥に無数の巨大な亀裂が入る。その割れ目の向こうに見えるのは、底の知れない暗黒の縦穴。下からは、凄まじい轟音とともに、熱気と冷気が混ざり合った狂暴な上昇気流の嵐が吹き荒れている。

『中間層:垂直大裂溝』への入り口が、今、俺たちの足元で完全にブチ抜けた。

「ボ、ボス! 床が抜ける! 落ちちゃうよォォォ!」

「へっ、上等じゃねえか! 第一層の資源はすべて齧り尽くした! これ以上ここに用はねえ!」

俺はラプトルの背の上にすっくと立ち、大混乱に陥る蟻の要塞を見下ろしながら、ギラリとダイヤの牙を光らせた。

「野郎ども、しっかりしがみつけ! 泥水をすするフェーズはここまでだ! これから地獄の底まで、俺たちのナワバリ(インフラ)を広げに行くぞ!」

ドゴォォォォォンッッッ!!!

床の崩落とともに、俺たちもふもふ覇王軍は、黄金の蜜を頬袋にパンパンに詰めたまま、暗黒の垂直大裂溝へと真っ逆さまに飛び降りた。

落下高度数千メートル。常識外れの空中サバイバルの幕開けだ。

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