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回せ、命の歯車。あるいは、最強の盾のハック

ミニ・ラプトルの幼体を「特攻バイク」として調教し、第一層の泥土を進む俺たちの前に、そいつは立ちふさがった。

「そこから先は、我が防衛陣地。一歩たりとも通さん」

通路を完全に塞ぐように鎮座していたのは、一匹のハリネズミだった。

名前は――『鉄棘のギルバート』。

だが、ただのハリネズミじゃねえ。背中に生えている無数の針は、地底の特異な結晶成分を吸収し、ダイヤモンド並みの硬度を誇る「結晶の盾」と化している。おまけに、こいつはその結晶の針を分子レベルで強固に結合させ、いかなる物理攻撃も弾き返す絶対の防御力を誇っていた。

「おいボス、あれが第一層の門番、ギルバート将軍だ……! 正面からぶつかったトカゲ(ラプトル)の群れが、あいつの針で全員ミンチにされたんだよ!」

後ろでマヌケがガタガタと震える。

確かに、ラプトルの爪や俺のダイヤの牙でも、あの結晶の結合を正面からブチ破るのは骨が折れそうだ。前世の「核酸医薬」の知識を応用して分子結合をバグらせる牙を完成させるには、まずあいつの体に触れて、その構造をじっくりスキャン(ハック)してやる必要がある。

だが、近づけばあの超硬度の針で串刺しにされる。

「正面から壊せない盾、か。結構じゃねえか」

俺はラプトルの背から飛び降り、もふもふの体で一歩前へ出た。

「壊せないなら、――内側から『茹で上げて』やりゃいいんだよ」

ギチチチチッ……!

不遜な俺の態度に、ギルバートが結晶の針を激しく摩擦させ、不気味な警告音を鳴らす。

「愚かなジャンガリアンめ。我が結晶の盾に触れた瞬間、お前の柔な体など消し飛ぶと知れ!」

ギルバートが体を球体に丸め、結晶のトゲの塊となって、猛烈な勢いでこちらへ転がってきた。質量と硬度を武器にした、回避不能の肉弾戦車だ。

だが、俺は逃げない。

迫り来る結晶の嵐を前に、俺は前世のドブネズミの記憶、そしてハムスターの肉体に刻まれた『最強の呪い(本能)』を呼び覚ます。

「ハムスターって生き物はよぉ……夜な夜な『回し車』を狂ったように回し続ける、バグった運動エネルギーの塊なんだよ。そのスペック、俺の戦闘技術システムとしてハッキングさせてもらうぜ!」

衝突の直前。

俺は正面から受け止めるのではなく、丸まって迫るギルバートの「球体の斜め上」へと、驚異的な跳躍で飛び乗った。

「なっ……何をした!?」

驚くギルバート。だが、本番はここからだ。

俺はギルバートの背中、つまり結晶の針の先端に、自分の小さな四肢をピタリと着地させた。そして――ハムスターの本能全開で、その球体の表面を【超高速で逆走ランニング】し始めたんだ。

シュバババババババババババババッッ!!!!

それは、生きるか死ぬかの極限の「回し車」だった。

ギルバートが転がる速度に合わせ、俺の小さな足が残像になるほどの超スピードで、彼の背中の上で空回り(ラン)を続ける。ただ走っているんじゃねえ。俺の足裏と、ギルバートの超硬度結晶の針が擦れ合い、凄まじい『摩擦熱』が発生し始める。

「な、ん……だと!? 体が……熱い……!?」

「ネズミの足の回転数を舐めんじゃねえぞ! 時速換算で何キロ出てると思ってやがる!」

摩擦熱は一瞬で数百、数千度に達する。結晶の針は熱を内側に伝える伝導体だ。外側からは傷一つつけられなくても、俺の超高速摩擦によって、ギルバートの肉体は内側から凄まじい高熱に晒されることになる。

いわば、ギルバート自身を回し車にした、即席の『電子レンジ』だ。

「ガ、アアアッ……! 熱い、熱すぎる……! 我が結晶が……!」

「終わりだ、引きこもり将軍!」

ギルバートが熱さに耐えかね、たまらず結晶の丸まり(防御姿勢)を解いたその瞬間。

俺は走るのを止め、無防備に晒されたあいつの「お腹」へと滑り込んだ。

そして、剥き出しになった皮膚へ、俺のギラつく前歯を突き立てる。

「ギガァッ……!?」

殺しはしない。

噛みついた傷口から、俺は自分の唾液を介して、あいつの体細胞の分子構造へアクセスする。前世の分子生物学の記憶――【核酸医薬】の概念の応用だ。あいつの結晶結合をコントロールしている生体信号を、俺の牙のハックで一瞬でバグらせ、書き換えてやる。

ピキ、ピキピキピキッ……!

あんなに強固だったギルバートの背中の結晶の針が、みるみると輝きを失い、ガラス細工のように脆く、しなやかな普通の毛並みへと変質していく。

「我が……絶対の盾が……無効化された……? 馬鹿な……」

ギルバートが、信じられないという目で俺を見上げ、その場に力なくへたり込んだ。

俺はあいつの鼻先に立ち、前足で乱暴に口元を拭った。

「言っただろ、内側からハックしてやるってな。お前のその結晶の結合技術システム、俺の牙が完璧にスキャンさせてもらったぜ。おかげで俺の牙は、どんな結晶の分子構造も噛み砕く『ダイヤの牙』にアップデートされた」

フッと不敵に笑い、俺は絶望するギルバートを見下ろす。

「おい、ハリネズミ。お前の盾の硬さは本物だ。こんなドブ底の門番で一生を終えるににににに(か)、それとも俺の『最強の前衛インフラ』になって、まだ見ぬ世界を侵略しに行くか?」

ギルバートは、自分の結晶の針を自在に操る俺の圧倒的な「害獣の格」を前に、深く、その頭を垂れた。

「……敗者に拒否権はあるまい。我が盾、今日より貴殿のために捧げよう、覇王ボス

「よし、交渉成立だ」

これで、軍勢の核となる『最強の盾』を手に入れた。

だが、その契約が交わされた直後――

ゴゴゴゴゴ……ピキ、ピキキキッ!

第一層の要衝を守っていたギルバートが俺に屈服した瞬間、泥の回廊のあちこちから、不気味な地鳴りが響き渡った。

頭上を埋め尽くす『迷宮植物の根』が、まるで苦悶するように激しくのたうち回り、その表面からドクドクと不気味な紫色の液体が染み出し始める。

「おいボス!! 大変だ、壁から……壁から何か変な水が溢れてくるぞォォォ!!」

マヌケの悲鳴が響く。

門番が破られたトリガーで、要塞全体の防衛システム(トラップ)が作動しやがったんだ。植物の根から噴き出してきたのは、触れたものすべてをドロドロに溶かす、超高濃度の【強酸の濁流】。

通路の奥から、シュウシュウと泥を溶かす音を立てながら、紫色の酸の津波が猛烈な勢いでこちらへ迫ってきていた。

「チッ、退屈しなくて結構じゃねえか。野郎ども、新装備ギルバートの性能テストの時間だ! 死にたくなきゃ俺に続け!」

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