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害獣流の歩き方。あるいは、恐竜の転がし方

「おいボス、本当にこっちに行くのか……?」

俺の後ろを、情けない声を出しながらついてくるのは、昨日ムカデの死体の前で腰を抜かしていたジャンガリアン――仮名『マヌケ』だ。

今じゃ、俺が即席でクラフトした「耐酸性のある植物の葉」で作った防具を背負わされ、すっかり俺の荷物持ち(兼・副官)にされている。

「当たり前だ。いつまでもこんな狭いドブ底に引きこもってられるかよ。俺の目的は上(地上)だ。お前らもひまわりの種を腹いっぱい食いたきゃ、足を動かせ」

俺たちは今、第一層の『泥土と根の回廊』を突き進んでいた。

頭上からは、地上から伸びてきているという『迷宮植物の根』が、まるで生きた蛇のようにグロテスクにのたうち回り、通路を狭めている。

たまに根の表面からピシャリと落ちてくる液滴は、強烈な酸性だ。普通のハムスターなら毛皮が溶けて大火傷を負うところだが、俺たちは違う。

「チッ、また酸の滴りか。マヌケ、防具の葉を傾けろ。……おい、そんなに震えるな。昨日、あのムカデの肉を食っただろ?」

「う、うん……。なんか、お腹が熱くなって、毛並みがゴワゴワしてきた気がする……」

「それでいい。あの虫の『耐酸性の常在菌』を、お前らのヤワな腸内に強制移植してやったんだ。今のお前らの腸内環境なら、ちょっとやそっとの酸じゃビクともしねえ『抗菌・耐酸の防皮』が内側から出来上がってきてるはずだ」

前世の東京のドブネズミが、人間の撒いたどんな毒殺エサにも数世代で耐性をつけたように、ネズミの本質は「環境への強制適応」にある。

俺が施した【腸内環境バイオハッキング】によって、この頼りないもふもふ達は、確実に「戦える害獣」へと進化し始めていた。

だが、そんな俺たちの前に、第一層の本当の「理不尽」が姿を現す。

キィィィィィィィ――!!!

シャァァァァァッ!!

前方の広い空間から、鼓膜を突き刺すような咆哮と、金属が擦れ合うような不気味な足音が響いてきた。

「ひ、ひえええ! ボス、この先は『恐竜の保育園』だ! 近づいちゃダメだ!」

マヌケが耳を伏せて叫ぶ。

俺が根の隙間から這い出てその空間を覗き見ると、そこは、まさに地獄の生態系サバイバルの縮図だった。

巨大な泥のドームを中心に、体長1メートルほどのトカゲ――『ミニ・ラプトル(恐竜の幼体)』の群れがギャーギャーと暴れ回っている。

だが、彼らが戦っている相手がヤバかった。

ジャリ、ジャリ、ジャリジャリジャリッ!!

地底の壁を真っ黒に染め上げて進軍してくるのは、一匹一匹が俺たちの拳サイズはある【軍隊アリ】の数万の超大群。

強靭な大顎を持つ蟻の津波が、ミニ恐竜の縄張りへ容赦なく牙を剥き、恐竜どもは鋭い爪と尻尾でそれを叩き潰している。

質量と数の暴力がぶつかり合う、凄まじい同士討ち(デスゲーム)。

「ボス! 逃げよう! 巻き込まれたら僕たちなんて一瞬で肉片だよ!」

「バカ言え。こんな美味いロケーション(厨房)、前世の東京でも滅多にお目にかかれねえぜ」

俺はダイヤ質のギラつく前歯をニィッと剥き出した。

「いいかマヌケ、よく見ろ。蟻どもは規律正しく動いてるが、フェロモン(通信)の経路が単調だ。そしてトカゲどもは、自分の子供(卵)を守るために必死で、周りがまるで見えてねえ」

正面から戦えば、俺たちもふもふ軍は一瞬で圧殺される。

だが、俺は「正面から戦う高潔な戦士」じゃねえ。下水道の隙間から人間サマのパイプを齧り取る、ドブネズミだ。

「おい、野郎ども! 配置につけ!」

俺の合図で、後ろに控えていた十数匹のジャンガリアンたちが、酸性の植物の根をガリガリと齧り始めた。ただ齧るんじゃない。根の張力を計算し、いつでも『罠』として解放できるように、構造の弱点だけをピンポイントで齧るんだ。

「蟻のフェロモン経路の真上にある根を……今だ、落とせッ!!」

バチンッ!!!

猛烈な勢いで弾け飛んだ植物の根が、軍隊アリの進軍ルートのど真ん中を直撃し、泥の壁を豪快にブチ破った。そこから溜まっていた酸性の地下水が、蟻の群れへと容赦なく激流となって注ぎ込む。

通信フェロモンをカットしたぜ。おいトカゲの旦那、右側が手薄だぞ!」

混乱する蟻の隙を突き、今度は恐竜どもの足元にある根を弾いて、ラプトルたちを蟻の包囲網の真っ芯へと文字通り「転がして」やった。

キシャァァァァッ!?

ジジジジジジジッッ!!

通信を絶たれて暴走した蟻の軍勢と、退路を断たれたミニ恐竜の群れが、完全に理性を失って互いを喰らい尽くし合う大混戦へと発展する。

それを見届けた俺は、混乱の極みにある戦場のド真ん中へと、無音で飛び降りた。

標体は、蟻の酸にまみれて孤立し、パニックを起こしている一匹のミニ・ラプトル。幼体とはいえ、その脚力はネズミの比じゃねえ。

「おい、トカゲ。前世の人間サマは、俺たちのことを『不潔な害獣』って嫌がらせみたいに呼んでたがな……」

俺はラプトルの背中に飛び移ると、もふもふの体でその太い首筋にピタリとしがみついた。そして、狂ったように暴れる恐竜の耳元で、ダイヤの牙をギラリと光らせる。

「本当に不潔なのは、お前らのルール(生態系)に一ミリも付き合わずに、美味いところだけを内側から『齧り取る』からなんだよ!」

グサッ……!

新井のダイヤの牙が、ラプトルの首の「神経節」へ、寸分の狂いもなく優しく突き刺さった。殺すためじゃない。微弱な生体電流をバグらせ、その巨体を【物理ハッキング(調教)】するためだ。

「キ、キシャ……ッ!?」

狂ったように暴れていたミニ・ラプトルの瞳から、一瞬でハイライトが消え、俺の意のままに動く「操り人形」へと変貌する。

「よし、いいコだ。今日からお前は、俺の特攻バイク(マウント)だ」

ラプトルの背の上にすっくと立ち、血煙の上がる戦場を見下ろす。

振り返れば、マヌケたちハムスター軍団が、呆然と、しかし熱狂をはらんだ目で俺を見上げていた。

「おい、ぼさっとすんな! 蟻とトカゲの死体から、使えそうな装甲(甲殻)と肉を神速で剥ぎ取れ! ──次は、この層の要衝を塞いでる、あの生意気なハリネズミの引きこもり(将軍)をハックしに行くぞ!」

恐竜の幼体を駆るハムスター。

地底のルールを嘲笑う害獣の侵略劇は、さらに加速していく。

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