Ep.23 脳内キャパオーバーです
波乱の? お茶会が終わると、私はお母様と一緒に真っ直ぐ屋敷へと戻った。
帰りの馬車の中で今日の出来事を思い出しては溜め息を吐き、その度にお母様は苦笑い。……もうぐったりですよ。
……いやあ、本当に疲れたなあ。……しかし、アイリス嬢は本当にヒロインなんだろうか?
こういう乙女ゲームだとか、ライトノベルのヒロインって私のイメージだと、「みんなが私を虐めるけれど、私、負けない!きゅるん!」って感じだと思っていた。
実際、妹から聞いていた話を思い出すと、こういう乙女ゲームとかの設定だと平民、もしくは下位貴族生まれの女の子が特別な能力だったり、ものすごく優秀だったから特別に貴族が通う学校に入学許可が下りる。
自分の明るい未来に心躍らせていたのに身分の問題で自分よりも高位の貴族たちに貶められ、必死に耐えているところを攻略対象の王子や貴族子息やらが現れてヒロインと関わっていくうちに、徐々に恋愛感情が芽生えていく————。
しかし、当然のことながら彼らには以前より決まっていた婚約者がおり、ヒロインに構ってばかりの婚約者に不満を抱き、その怒りの矛先はヒロインへと向かう……。
…………こうして思い返すと、ぶっちゃけヒロインが嫌がらせにあっても仕方がなくないか? と思ってしまうんだが……。
そりゃあ婚約者が自分以外の女の子に構ってばかりだったら、その子からしたらおもしろくないに決まっている。
ましてやこの世界には『男女の別』というものが明確にあって、婚約者とは言え同じ空間内で二人きりになることすら許されないのだ。
大抵は政略的なことだったりで、「初めまして~」の状態から婚約するわけだ。
淑女教育を受けている令嬢が、そうホイホイと最初から全て曝け出すなどあり得ないし、それを良しとしない家だって多くあるだろうし。
それでも将来夫婦となるのだからと、少しずつ関係を深めていこうとしている矢先に……それだ。
婚約者の令嬢の感覚からしたら「未婚の令嬢が婚約者のいる子息に近付くなんて!」って怒って当たり前な案件だし、それを注意するのは婚約者として当然の権利だし……。
それを注意=怒られたと脳内変換し、怯え、泣く→子息激おこ! とか理不尽極まりない。
そのことに関して何も考えていない婚約者も婚約者だよねえ…………。
前世の価値観から言えば「そんな浮気男捨てちゃいなよ! きっと、他にいい人がいるよ!」とあるあるアドバイスされるところだが、貴族社会は家と家との繋がり問題で、そう簡単にいかないこともある。
特に令嬢の身分が下位だったら余計に申し出ることは難しいだろう。
…………そして更に、この世界は男女の別とか言っている癖に、『男尊女卑』でもあるのだ。
男の浮気は「男にはそういう時期もあるから、今は目を瞑らないと」や「妻となるのだから貴族令嬢として、そのくらいのことで目くじらを立てるな」だとか、令嬢側の『我慢』の上に成り立つというね…………。
自分は我慢させられているのに、当の婚約者は好き勝手ヒロインを愛で、ヒロインはヒロインで「私たちは友人で、そんなつもりは……」なんて言われたら、私でもキレると思う。
他の女の子と遊びたいなら、まずこっちとの関係清算すべきだろう!!
そして……友人の一人でそんなつもりがないと言うなら、婚約者の令嬢に配慮すべきじゃないのか!!
友人の彼女、もとい婚約者が嫌がっているのに、それを「そんなつもりはないから」で押し通すな!!
……と、声を大にして言いたい…………実際には言えないけど。
はっきり言って、そんな婚約者がいながら他の女をちやほやするような男の神経が理解出来ないし、それを喜ぶ女の方も謎過ぎるせいで、私は妹の話が頭に入らなかったのかもしれない。
まあ、私もライトノベル設定で同じ状況になるのだろうが、残念ながら私は同じことを言うつもりはない。
だって婚約者なのに正論を主張したら疎まれるんだよ?
おまけに確かに虐めは良くないし、必要以上に虐げるのも褒められたことではけれど……貴族社会、上の言うことは絶対なわけで……本来ならば筆頭公爵家の令嬢である以上、ある程度のことは許されるのだ。
…………もちろん、殺人未遂は頂けないが。
とにかくバッドエンド抜きにしても、勘弁して頂きたいよねえ…………。
そんな三角関係……もはや三角どころじゃないけれど、そんなの普通でも面倒くさいのに、更に複雑な男女間の対応など前世喪女の私には、絶っ対に出来るわけがない。
関わるのも面倒くさいし、『骨折り損のくたびれ儲け』となるに決まっている。
そんなことに労力を使うくらいなら、全て終わらせて田舎暮らしを選ぶよね。うん。
その為には虐めだとか冤罪掛けられて断罪される前に、婚約を解消して頂いて領地へ行きたいのだが……一向にクロード様とアイリス嬢の距離が近付く気配が全くない。
本来、攻略対象者たちと『対話』という名のキャッチボールをしなければならないのに、ヒロインのアイリス嬢が明後日な方向へ思いっ切りボールをぶん投げているせいなんだけど……。
————そうこうしているうちに馬車が屋敷に到着し、エントランスでお母様と別れ私室へ向かい、部屋着に着替えを済ませてからアンにお願いして一人で休憩することにした。
だらしなくベッドの上で大の字になって寝転ぶと、改めて入学してからのことを思い返す————。
アイリス嬢を見る限り、クロード様に気があるのは確かだと思うんだよなあ。顔を見る度、頬を赤く染めているし。
他の攻略対象者たちとは、どうなっているのだろう?
少なくとも側近三人衆は殆どクロード様の側にいるわけだから、まあ話そうと思えば話せないことはないはずだ。
…………実は裏でこっそりと、そっちの攻略が進んでいるとか……?
そういえば、乙女ゲームには『逆ハールート』なるものがあるとも聞いた。
…………リアルで逆ハーなんて、正気の沙汰じゃないとは思うんだけれど……。
数人の身分の高い子息たちが一人の女の子に群がって共有し、おまけに誰の子を生むか分からないとなったら…………はっきり言って国の崩壊じゃない?
ましてや攻略対象者の中には、王族であらせられるクロード様がいる。
王族以外の血を引く可能性のある子どもを王家に迎えたら、血統の正統性が疑われる…………。
————でもその場合、『悪役令嬢役』は誰になるんだろう?
四人の悪役令嬢が結託? それとも王太子の婚約者である私が裏ボス的な感じ?
……うーん、考えても分からないことだらけだ。
そもそも、この世界の本来の原作はどうだったのだろうか?
少なくとも私はこんな感じじゃなかっただろうし……。
何せ、ヒロインを事故に見せ掛けて『殺っちゃおうぜ!☆』なんて考えるほどには過激な性格っぽいし。
そして、それは多分アイリス嬢も同じな気がする————。
原作と違って今のアイリス嬢に、クロード様も、側近三人衆も、好意的ではない。
もっと直接的に言ってしまえば、好感度が0に等しい。
…………果たして、本当に攻略する気があるのだろうか? と私が疑問に思っても仕方がないよね?
仮に——ヒロインがヒロインじゃなくなったとしたら……どうなるのだろう?
新しいヒロインが現れるのか、もしくは強制力という名の原作補正が働くのか…………。
……まあ、私が一人でこんなことを考えたところで何の意味もないし、何かが変わるわけでもない。
脳内のCPUが考えをまとめようと必死に働いているが、残念ながら私は前世のPCのように優秀ではなく、何ならフリーズしたまま『読み込み中です』とばかりにくるくると回って終了だ。
…………つまり、これ以上考える為の脳内容量がない。
ふっかふかの高級ベッドの上で、普段使わない思考力と精神力を使い果たしてしまったのか、だんだんと瞼が重くなり、その強烈な眠気に抗いきれずに、そのまま完全に力尽きた。
それなりに頑張ったが、もはや自分の頭で考えられるキャパを完全に超えてしまった。
————あとは、丸っと誰かにお任せしよう。
意識が夢と現実の狭間で漂っている中、眠りに落ちる瞬間にそんなことを思った。
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