Ep.16 光魔法付与はアウトです
【報告】近況報告でもお知らせ致しましたが、この度『なぜ、私に関係あるのかしら?』が、アース・スターノベル大賞様にて金賞・コミカライズ賞を受賞致しました!
これもたくさんの読者様の応援のおかげです。
誠にありがとうございました┏○))ペコッ
下級ポーション用の材料で、何と!上級ポーションを作り出したヒロイン——アイリス嬢。
周囲の生徒たちから賞賛の声を掛けられ、頬を染めてはにかんでいる。
うん、すごいことをやったんだから興奮しちゃうよね。よく分かる。よ~く分かるよ?
……けれど、「理科室では騒いではいけません!」と習わなかったのかな?
…………いや、正確に言えばここは理科室じゃないけれども。
でも、ここにも薬品類はあるわけだし、騒がない方がいいと思うんだが。
「はいはーーい!静かにしてよーー!実験室は薬草以外にも薬品があるんだからねーー」
私の心の声が聞こえたのでしょうか?
眼鏡っ子先生が興奮している生徒たちを宥めた。
騒いでいた生徒たちはとりあえず静かになったけれど、興奮は冷めやらないようで、ヒソヒソとまだアイリス嬢へ何かを話し掛けているのが見える。
クラスの生徒たちがみんな興奮していたか、と言えばそんなことはなく。
そんな風に盛り上がっていたのはごく一部、平民や下位貴族が殆どだ…………。
視線だけで教室内をぐるっと見回してみると、冷静にアイリス嬢の様子を見つめている人の方が意外と多い。
特に高位貴族たちだ。
…………いや、中には嫉妬を滲ませて唇を噛んでいる人もいるし、私の後ろで呑気に「へえー。すげーなあー」と考えなしに感心している人もいるけれどね。
「クロード様…………」
「……ああ、分かっている。けれど、大丈夫だ」
恐らくこの後問題となるであろう状況に思わずクロード様の名前を呼ぶと、王子スマイルを完全に消したまま、低く硬い声で答えた。
「——さて、聖女さん。下級の材料から上級ポーションを生み出したのはすごいことだけれどーー、次からは光魔法の効果を『付与する』のは止めてねーー」
「……えっ……?」
眼鏡っ子先生がアイリス嬢に向き合ったかと思えば予想外の言葉を告げたことに、本人も周囲も、目を見開いて固まってしまった。
…………まあ、そうなるよね。
「な、何でですか!?シュプリーム嬢がやったことはすごいことじゃないんですか!?」
さっきまで賞賛していた周囲の生徒たちが納得がいかないとばかりに詰め寄っているけれど、先生はきょとんとした顔をしている。
「え?だってこれ光属性持ちで、そこそこの魔力がないと出来ないんだよーー?戦争中とかーー国中が流行り病でバッタバッタ倒れてるーーとかじゃない限り、必要ないでしょーー?」
「それとも何ー?もしかして、聖女さんが全ての薬師の代わりにポーション作ってくれるのーー?」と、不思議そうに彼らに問い掛けた。
…………そう。確かにアイリス嬢のやったことはすごいことだけれど、光魔法の効果を『付与する』というのは一発アウトな行為なのだ。
本来、材料を煮詰めている時に『魔力を注ぐ』だけで、あの見た目最悪な液体は『ポーション』へと変わる。
————けれど、彼女は下級用の材料で上級ポーションを作り出した。
それは光魔法の効果を『付与した』ことによって、元々の薬草がより上質な物へと『変異した』為に起きた事なのだと思う。
分かりやすくイメージするなら、じゃがいもや鶏肉を煮込んだ物に『カレー粉』という名の『ただの魔力』を入れて出来たカレーは、『下級ポーション』と同じく何の変哲もない『チキンカレー』だ。
けれど、そこに『光魔法効果』を付与すると——光魔法により物質が変異し、何とびっくり!『ビーフカレー』という名の『上級ポーション』へと進化してしまったじゃありませんか!ということと同じ状態なのだ。
…………やったことないから、正確には知らないけれど。
『聖女』と言っても他の光属性持ちと違いはなく、光魔法を使えば《《誰でも》》効果を付与することは出来る。
だから、『称号』なんだよね。
よくある乙女ゲームとかノベルのように、そもそも光魔法を使えるのが『聖女』しかいないとかなら話は別なんだろうけれど。
つまり、他にも同じことが出来る人は何人かいる——では何故、それが周知されていないのか?————
「下級ポーションっていうのはーー薬草自体もそんなに珍しい物じゃないしーー魔力量が少なくても作れる物だから、安価に手に入れられるわけなんだよーー」
そこまで説明すると、先生は一気に表情を消した。
「多くの貴族はお金があって下級や中級は当然のこと、上級も割と簡単に手に入れられる…………じゃあ、下級を使うのは————だ~れだ?」
その問いに一人の男爵令嬢が小さく手を上げて、恐る恐る「平民や……家のように、お金のない貴族です……」と答えると、その言葉を待ってました!!と言わんばかりに眼鏡っ子先生はパン!と一回手を叩くと、満面の笑みを浮かべた。
「そう!!だから、下級ポーションを作っているのは平民の魔力持ちや下位貴族なんだよーー!」と告げ、再び淡々と言葉を継いだ。
「……でもさーー。聖女さんのように光属性持ちが、下級ポーションの材料から上級ポーションを作れることが知られたら、どうなると思うーー?下級の材料を買い占めて強制的に上級ポーションを作らせる————ってことが出来ちゃうよね?」
「そうしたら今まで以上に光属性持ちの身が危険になるし、そのポーションが出回って上級ポーションの値が下がったとしても、それでも下級ポーションほどまでは下がらない」——一度言葉を切って、眼鏡っ子先生は一度目を閉じた。
次にゆっくりと瞼が開いた時、その瞳にはどこか怒りのようなものが滲んで見えた気がした。
「下級ポーションを作る材料がなければ、今までそれを仕事としていた人たちは職を失う。安価な下級ポーションも手に入らなくなり、今まで以上に光属性持ちの人たちは危険に晒される」
間延びした話し方ではなく一人の光属性持ちの人間として語ると、冷えた視線をアイリス嬢やその周囲の生徒たちへ向けた。
その視線を向けられた生徒たちは顔を青くさせたり、肩を震わせたりと、一様に自分たちの安易な考えに気付かされたように見える。
誰かの身に危険が迫るかもしれない、誰かの生活を壊すかもしれない——先生の怒りは至極当たり前のことだ。
…………ことだけど…………眼鏡っ子先生、怖っ!!
アイリス嬢たちには気の毒だけれど、あの視線が私に向けられなくて良かった……。
ちまっとしたマスコットキャラクターのような先生から、あんな視線を向けられたら……私は泣くよ?
まあ、そもそも先生はポーションの作り方を説明する時に、『魔力を注ぐ』としか言わなかった。
それはここにいる殆どの人が『光属性を持っていない』からだ。
属性の関係ないポーション作りをしているのに、その意図を汲み取らずにアイリス嬢は光魔法の効果を『付与』してしまった。
そもそも属性が関係あるなら、属性別にグループ組ませていただろうしね。
————高位貴族たちは、それに気付いていた。
アイリス嬢が光魔法の効果を『付与』したことに。
魔力量の多い高位貴族たちは、やろうと思えば何かこれに近いことが出来ると思う。
けれど、それをしてしまうと困る人たちがいるからこそ、その領域には安易に手を出してはならないのだ。
「……ていうかさーー聖女さん。光属性持ちはーーポーションとか作る時に、光魔法を簡単に付与しちゃダメだよーーって教わらなかったのーー?」
「……あっ……私、ポーション作りは、今日が初めてで……」
ん?ポーション作りって教会でもやってなかったっけ?
アイリス嬢の言葉を不思議に思い、チラッとセドリック様へ視線を向けると、彼は眉尻を下げて首を横に振った。
…………うん、何か事情がありそうだ。
眼鏡っ子先生は「ふーーん……まあ、次から気を付けてねーー」と何か含んだように注意すると、アイリス嬢は俯きながら掠れた声で「すみませんでした……」と謝罪していた。
ほんの少し前まで彼女を囃し立てていた生徒たちも気まずそうに自分たちの席へ戻って行き、周囲を囲まれていたアイリス嬢はその場にポツンと取り残され佇んでいる。
先ほどまで胸元で不安そうに握られていた両手が、今は制服をギュッと強く握り締めていたことなど、誰も気付いていなかった……。
————ただ、一人。クロード様を除いては…………。
誤字報告ありがとうございます┏○ペコッ




