Ep.15 ヒロインの見せ場っぽいです
結局アイリス嬢の狙いは分からないまま……私は今日も今日とて学園へ通う。
相変わらずクロード様が屋敷にまで迎えに来て、王家の馬車に揺られて学園に到着すると、側近三人衆のお出迎え……
何だか重要人物みたいな扱いされているけれど、ぜひ止めて頂きたい。
クロード様は王族だから構わないだろうけれど、いくら筆頭公爵家の令嬢で王太子の婚約者だと言えど、限度ってものがあると思うんだよね?
馬車から先に降りたクロード様のキラースマイルと共に差し出された手を取って降りただけで、周囲からの注目度ほぼ100%だからね?
そして校内に入れば、私の隣をがっつりキープしたクロード様と、後ろからぞろぞろ着いてくる側近三人衆……。
目立たないわけもなく、出る杭になりたくない心は日本人の私にはキッツイ。
でも、これも私を守る為だって分かっているから、文句は言えないんだよね……。
…………いや、そうでなくてもクロード様のにっこり圧を受けた瞬間、お口にチャックとなる自信があるな。
四人とも教えてくれないけれど、下位貴族たちの間では私は『危ない物が憑いていて傍にいると悪いことが起きる』と噂されているらしい。
たまたまお花摘みへ行って戻る時に、物陰で知らない令嬢たちがヒソヒソ話しているのを聞いてしまったから、ばっちり把握しているけれど……。
……残念ながら、そんな学校の七不思議的な事実は当然あるわけもなく……まあ人間、目に見えない物を怖がる習性があるからね。
彼女たちから見えない位置に隠れ、一人でうんうん頷いてから平然と教室へ戻った。
ちなみに高位貴族たちはというと当然の如く、『そんなの信じるわけないでしょ。むしろ信じる人いるの?』という感じだけれど、中には足を引っ張ってクロード様の婚約者の座から引き摺り落としたい人、もしくはおもしろ半分って人たちが一定数いるようだ。
個人的には不毛なやり取りだと思うから、特に気にしていない。
何せ、心は立派なアラサーだ!
それにこういうことって、噂を否定する為に『何も悪いことは起きませんよー』とどんなに言葉で伝えても証明が出来ないのと同じく、『傍にいると悪いことが起きる』ということも証明出来ないんだよね。
むしろ、そっちのが故意的に起こさない限り難しいかも?
今のところクロード様と側近三人衆が常に傍にいるせいか、直接物申して来る人はいない。
物申せるなら、ぜひ物申して欲しい…………クロード様に。
そうしたら、「わたくしがクロード様のお側にいるのは相応しくありませんわ……」とか何とか言って婚約を辞退とか……。
頭の中でそんな妄想を繰り広げていた。
「ベアトリス?何を考えているんだい?」
「…………いえ、特には……」
何やら不穏な空気を感じ取り、平静を装って微笑みながら否定してみたけれど、「そっか!何か不穏な気配を感じたんだ」と微笑み返しながら軽く仰った。
…………何故でしょう?クロード様は私の思考が読めるのでしょうか?
まともに顔を見ることが出来ず、「うふふ」と前アイゼン侯爵夫人笑いで誤魔化しておいた。
————恐るべし、クロード様。
——————
「はい!魔法薬学の授業を始めまーす」
前世の学校の理科室のような教室へ移動して教卓の前に現れたのは、ちまっとしたおさげな眼鏡っ子。
「ちなみに先に伝えておくけれど、私はちゃんと成人してるし王城の薬師資格も持ってるからねー!あと『小さい』という言葉は禁句で……もし言ったら……」
そう言って眼鏡っ子先生は片方の口角をニヤリと上げた。
……うん。これまた何か癖がありそうな先生だから、心の中に留めておこう。
今日の授業内容は『ポーション作り』だ。
下級、中級、上級、そして最上級のハイポーションが存在しているわけだけれど、ハイポーションを作成出来るのはほんの一部の魔力量が多い人らしい。
つまり、魔力量がただ多いだけではダメだということだ。
ポーション作りは『光属性魔法』持ちに向いているらしいけれど……これ、絶対にヒロインの見せ場イベントじゃないですか?
……ということは、あまり目立たないほうがいいよね?
眼鏡っ子先生が指定した薬草をひたすらすり潰し、何の変哲もない水で煮込む。
そしてその煮込んでいる間に魔力を注ぐわけだけれど、他の基本属性しか持っていない中級レベルの魔力量の人の様子を確認しながら魔力量を調節する。
…………はっきり言って、煮込み最中のこれは不味そう……というか回復前に成仏しちゃうんじゃ?ってくらいの土留色。
(土留色を知らない人に説明するなら、赤紫から黒紫に変色した痣を思い浮かべて欲しい)
そんな風に心の中で誰かに向かって注釈を入れてみたわけだけれど。
まあ、とにかく飲んだら危険!と感じるような色にドロッとしたテクスチャー……。
私に命の危険があったとして、これを飲まなきゃいけないとなったら、ぜひ私を気絶させてからにして欲しい…………。
そんなことを考えながらひたすら混ぜていると、何ということでしょう。
だんだんとテクスチャーが液体っぽくなり、色も透き通っていくではありませんか!
これなら飲めそうだ、と内心うんうん頷いていると——アイリス嬢の鍋が急に強い光を放ち始めた。
それはもう、目を開けてられないくらいの強烈な光が。
あんなの間近で光られたら、前世で某天空にあるお城物語に出てくるお兄さんのように目が潰れちゃうんじゃない?
私も、教室内の人たちも、当然開き続けられるわけもなく、咄嗟に腕でガードした。
だんだんと光が弱くなり、ようやく状況が確認出来るようになると、アイリス嬢の傍には眼鏡っ子先生がいた。
先生は腕を組み、もう片方の手で顎を摘みながら彼女の鍋の中を覗き込んでいる。
周囲の生徒はもちろん、私やクロード様、そして後ろにいるから分からないけれど、多分側近三人衆も注目してるはずだ。
少しの間その状態が続いていたけれど、徐に自分の懐から、まるで高級化粧品に使われてそうな小ぶりの瓶を取り出し、キュポン!とガラス蓋を引っこ抜くと、横口レードルっぽいもので鍋の中の液体を注ぎ入れ始めた。
「アルディス女史……いや、先生は王城の薬師の中で唯一鑑定魔法が使える人なんだ」
「鑑定魔法、ですか?」
ファンタジーな物語で鑑定魔法というものがあることは、妹談義で薄らと覚えている…………たぶん。
ただこの世界の魔法って、基本的に魔法属性に忠実なんだと思っていたけれど違うのかな?
「あの、フェリクス様?鑑定魔法の魔法属性は何になるのでしょうか?」
「ん?ああ、鑑定魔法は『光属性』になるかな。ただ上級魔法だから、彼女には使えないだろうけれど」
小声で尋ねてみるとクロード様は私の耳元に顔を近付けて、口元が見えないように手で隠しながら答えた。
…………だから近いって。まあ今回は仕方がない、のか?
ただクロード様の言葉に私は「なるほど……」と納得したけれど、そこで止まらず言葉を継ぎながらアイリス嬢へ鋭い視線を向けていた。
何か……警戒してる?アイリス嬢に?何で?
クロード様の考えが読めず…………いや、いつも読めないけれどね!
再びアイリス嬢の方へ視線を戻すと、眼鏡っ子先生は十分な量をビンの中に注ぎ入れると蓋をし、自分の目線よりも高い位置まで持ち上げて軽く振っている。
じぃーーっと少しの間ビンを見つめたと思ったら、腕を下ろし一人でうんうんと頷いた。
…………一人で納得しないで頂きたい。
「うん、さすがだね。聖女さんのポーションは高級ポーションだよー。今回用意したのは初級用の薬草なんだけど、光魔法の効果が付与されてるねー」
「……っ!あ、ありがとうございます!」
アイリス嬢は眼鏡っ子先生の言葉にはにかみながら、ガバッと頭を下げてお礼を伝えた。
彼女の周囲にいる人たちも「さすが聖女様!」「すごいですわ!」など、歓喜に沸いていた。
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