恋に落ちた勇者 1
「だって、クラウディオ様と私を馬鹿にしたんですもの。少しくらい困らせてやらないと」
レオノールは、まだ頬をわずかに上気させたまま、空になったグラスをもてあそんでいる。
ギデオン三兄弟の“教育”によほどの力を注いだのか、食べ過ぎで消化にエネルギーを消費しているのか、どちらだろう。
「でも、食べ過ぎたかなって後悔してます。ちょっと、外に出てきますね」
特等室にはテラスも併設されている。
テラスには白のテーブルセットが置かれ、室内とは異なる趣を見せていた。
ガラス扉の外では、湖の光が静かに煌めいている。
その光に照らされる彼女自身までも、輝いて見えた。
こんな女は、見たことがないーー
後ろ姿を見つめる自分の頬が緩んでいると感じる。
レオノールはクラウディオの知っている、身近な女性とは何もかもが違う。
生意気で、下品で、強いだけだと決めつけていたが、そうではなかった。
クラウディオの常識で測れないくらい、レオノールの器が深かっただけの話だ。
行動が規格外で、一挙手一投足から目が離せない。
それに不思議と……今日のレオノールにはどこか、愛らしさまで漂っている気がする。
デートだ何だとおどけておいて、赤くなるなんて。
つくづく変わった女だ。
誰も見ていないと知りながら、クラウディオはコホン、と口元に拳を当てて咳払いをした。
あくまで”レオノールに釣られて”だったが、こちらもしばらく顔が火照って困った記憶は残っている。
ふと目を向ければ、レオノールは何やらブーツを脱いでテラスの縁に座り込んでいた。
少しもじっとしていないところがまた、面白い。
「何をしてるんだ」
クラウディオは椅子から腰を上げるとレオノールの背後に立った。
「湖がキレイで気持ちよさそうなんで、泳ぎたいな~って」
レオノールはいつも通り朗らかに答えた。
「でも、着替えがないから、せめて足だけでも浸そうかな……と」
しかし、振り向いてクラウディオと目が合うと途端に縮こまる。
顔も心なしか赤らんでいる。
「今日は暑くもないのに……湖に入りたいと言い出すのは君だけだろうな」
フフッ、と柄にもなく、声を出して笑いそうになった。
一体自分は何を見て、この女を毛嫌いしていたのか。
レオノールが慌てて足を浸すと、ぽちゃりと澄んだ雫が跳ねる。
一度は笑ったものの、それが爽快そうに見えてクラウディオも隣にしゃがみ込んだ。
それにレオノールの行動に寄り添う姿勢を見せれば、喜ぶだろうと思っていた。
しかし、実際には違った。
レオノールは「ぎゃ」とも「わぁ」ともつかない奇妙な声を上げて湖に浸した足を引っ込めた。
クラウディオは一歩も動いていないのに、器用にも腕で2歩分ほど横にズレて距離を取る。




