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「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚  作者: きぬがやあきら


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恋の足音 5

「いでででで、む、無理っ、やめて……」

 

 頭蓋骨を砕かんばかりの握力に男は涙目になった。

 

 これっぽっちで泣きを入れるなんて情けない。


「コイツ、イルデを放せよ!」


「クソ女、俺たちを誰だと思ってるんだ!」


 イルデ以外の2人がレオノールの肩や腕を掴んで引き離そうとする。


 しかしその力の、なんと非力なことか。


 猫じゃらしくらいの細やかさで、くすぐったいくらいの抵抗だ。


「さあ、何処のどなたかトント」


「ギデオン家のーーボルノ……ウッ、わ!」


「グフゥ、く……や、やめてヤメて、うああぁあぁーっ」


 背中にへばり付いたボルノを左手でひっぺがし、上空へ放り投げる。


 イルデの頭を掴んだ手を開くと、もう気を失ったのか崩れ落ちる。


 右腕に取り憑いていたもう1人は、振り回す勢いでボルノに投げつける。


 派手な音を立てて重なって落下する。


 地面に激突するすんでのところで受け止めてやった。


「エッ……い、生きてる……!!」


 2人を草の上に転がすと、息も絶え絶えになったボルノが呆然と呟く。


 茫然自失となったもう1人は寝そべったまま胸を上下させ、ぼうっと虚空を見上げていた。


「うん。死なないように加減したのよ」


「は……そうだろ。ギデオン家を敵に回したらどうなるか……わかっているようだな」


 気絶したフリだったのか、もう覚醒したのか。


 こんな状況ながら、虚勢を張ったのはイルデだった。


 イルデは這いつくばった体勢から、どうにか顔だけを持ち上げる。


「そんなん知らないよ。けどさ、誰がタダで帰すなんて言った? 下品な言葉で貶められて、私もあの人もすっごく傷ついたのよ」


 レオノールはしゃがみこんで深緑色の、上品なタイを掴み上げた。


 エッ? と、目論見が外れて、イルデは途端に蒼白になる。


 ただでさえ頭を締め付けられた後だから、白を通り越して土気色へと変色していく。


 気の毒な気もするが相手を理解せずに喧嘩を売る、この子らの今後のためにも、多少過激な教育的指導は必要だ。

 

「オトシマエって、知ってる? お坊ちゃん」


 レオノールは半眼でイルデを見下ろし、ゆっくりと問いかける。


 その後はレストハウスで、腹がはち切れるくらい散々に飲み食いしてやった。


 勿論、ギデオン兄弟の奢りでだ。


 クラウディオは呆れていたけど、レオノールは2人きりではない巡り合わせにどこかホッとしてもいた。




 ***




 10杯目のレモネードを飲み干したところで、ギデオン兄弟は解放された。


 3人そろって引きつった同じ笑顔で「ご機嫌よう、お姉様」と逃げ去る兄弟の姿は実に趣が深かった。


 レオノールにばかり気を取られて、クラウディオの正体にすら気づかない様も新鮮で滑稽だ。


 テーブルの上には食べ散らかした料理と笑いの残滓が残っている。


 焼き鳥の串が何本も皿に積まれ、冷めたポタージュが風にゆれていた。


 クラウディオとレオノールの2人は、旅人を含め、庶民も利用するレストハウスの中でも、上等な個室に案内された。


 ギデオン侯爵家はこの辺りで随分と幅を利かせているらしい。


 店の者らも“王太子クラウディオ”や“勇者レオノール”の正体には気づかず、ギデオン三兄弟を大事にもてなしているのだから、お忍びとは実に貴重な体験だ。


「まさか“ケジメ”をこんな形でつけるとは思わなかった」


 そう言って微笑んだ自分の声が、思いのほか柔らかく響いた。



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