恋の足音 4
「そこの、赤髪のあんた。こんな朴念仁は捨てて、俺たちのところへ来なよ。可愛がってやるからさ」
青年の一人がクラウディオを挑発して見せる。
すると他の連中も便乗して高らかに笑い出した。
キャハハハ、と、いかにも生白いお坊ちゃんたちの、弱そうな笑い声が響く。
そのお陰でレオノールの頭は、スンッと一気に冷えた。
ごく落ち着いた仕草で、クラウディオの腕を解く。
後ろから「放っておけ」とクラウディオが低く呟いた。
けれど、その口ぶりが余計に彼らを煽ったらしい。
「やめろよ、俺は可愛がるなら女がいいよ」
「ちょっとは可愛げはありそうだけど、あんなデカイ男に粉かけて、どうすんだよお前」
レオノールは「スゥ、はぁ」と一度深呼吸をして、手綱をクラウディオに委ねる。
「ちょっと持っててくださいね」
レオノールの心体を元に戻してくれた坊ちゃん方だ。なるべく穏便に済ませてやろう。
「おっ、こっちに来るぞ」
そんな風に善意を抱きつつ接近したのに、ボンボンたちの暴言は止まるところを知らない。
「何、俺らのほうがいいって気づいた?」
「赤い髪のほうだけか。あっちは意気地がないなあ」
「近くで見ると、案外いいんじゃねえの」
「ハーイ、坊やたち」
手を挙げて挨拶をしてやると、ニヤニヤと品のない笑みを浮かべた。
育ちが良さそうなだけに、タチが悪い。
こちらも笑顔で対応してやる。
「軽口叩くアンタらの中で、お姉さんに上に乗られる度胸のある子はいる?」
互いに手を伸ばせば触れられる位置まで来ると、猫撫で声で呼びかける。
近くで見れば、3人揃って同じ顔をしていた。
大小の差はあるが、3つ児なのか。
「ははッ、お姉さんってーー」
「でも、声は女っぽいじゃん。もしかして本当に女?」
「はーい、じゃあ俺は手を上げマース」
「俺も俺もぉ」
3人のうち1人が気まずそうに引き下がったが、残りの2人は興奮を抑えきれず手を挙げた。
「順番だから、待っててね」
レオノールは手を振り上げて、お調子者の一人の頭頂部に手を乗せる。
「上に乗るって、何してくれんの?」
「はい、じゃあ順番ね♡」
何をされるか、予想もつかない愚か者は、呑気に首を差し出してヘラヘラと返事を待っている。
(ちょっとビビらそ)
笑顔のまま、ぎゅっと掌に力を込めるとギシッと頭蓋が軋む音がする。
「ぎゃっ」と短い悲鳴が上がった。
「だだだ、いでぇええ」
「は? いったい何してんだ? オイ、離せよ、ふざけてんのか!」
舐め腐っていたガキどもが、ようやく異変を感じ取って騒ぎ出す。
対峙した時点で相手の力量も見抜けないのだから、災難にあっても仕方ない。
「首に力入れな。ぶん投げるわよー」
レオノールは素っ気なく言い放つ。




