恋の足音 3
「それなら預けるところがある。馬にも休憩をさせよう」
負担のかかる走りをさせたから、休憩が必要だとは思っていた。
水も飲ませてやりたいし、預かり所があるならちょうどいい。
手綱を引いて回転させると、汗が冷えたのかブルリと大きく胴震いする。
「私、かて……勝てると、思ってました」
舌を噛みそうになって、どもる。
あんまりに鈍った身体反応に、レオノールは軽い恐怖を覚え始めた。
「直線だけの勝負ならそうだろうな。驚くほど速かった。馬との相性もあるだろうが……直線だけなら負けていただろう」
ヘらりと笑いたいのに、口の端まで引き攣りそうだ。
自分自身に困惑しながら、湖畔のレストハウスへ向かう。
水気を含んだ湖面の風がふわりと頬を撫で、少しだけ熱を覚ましてくれるのがありがたい。
朝も八時を過ぎ、人の往来がぽつぽつと増え始めていた。
森の奥から現れた3人の青年たちは、どうやら同じレストハウスを目指していた。
近隣の貴族屋敷から出発したのだろう。
上等な乗馬服に、揃いの絹のタイを翻している。見るからに金持ちの遊び人だ。
「だが、図らずもこれで少しは君の役に立てるかもしれない希望が生まれた。勝負も無駄ではなかった」
「え? 私がクラウディオの役に立つんじゃなくて、クラウディオ様が?」
「分野とやり方次第では、俺にも君に勝る部分があるということだ。俺ばかりが助けられては、あまりに不甲斐ないからな」
クラウディオは喜びを噛みしめているようだった。
しかし、勝ち誇るような嫌味さはない。
どういった思考の流れでこのような台詞が出るのか解せない。
クラウディオはレオノールに力づくで夫にされたと、恨んでいるのではなかったか。
毒矢を受けて、多少の苦しみを味わったが、大したものではないし、こうして褒美にデートまでしてもらっている。
???
緊張と高揚の余韻が抜けきらずぼうっとした頭では得心できない。
足元の草は夜露でまだ滑りやすく、その上クラウディオの発言に気を取られた。
「どんな思考回路です? クラウディオ様が不甲斐ないなんて発想がどこから……わっ」
うっかりバランスを崩してよろめいた瞬間、クラウディオの手がすっと伸びる。
反射的に肩を掴まれ、彼の胸にぶつかるようにして止まった。
「びっくりした。どこか痛めたのか? 君がこんな」
「ひえっ!」
レオノールの肩とクラウディオの胸がくっついて、すぐ真横に造形に優れた顔がある。
一瞬で大接近して、思わず悲鳴が口から飛び出していた。
鼻取りをしている手綱を握り締めて、身体を縮こまらせた。
……身長は180に近い大柄なので、残念ながら少しも小さくならなかったけれど。
「ヒュゥー、やるね」
「見ろよ、あの二人。男同士でいちゃついてるぜ」
レオノール達の動向を目ざとく見ていた青年たちが嘲笑を投げかける。




