恋の足音 2
どこで、何を間違えた?
己の呼吸音がうるさくて、嬉しいのか悔しいのかも判断できない。
「スピードだけが勝負の決め手ではない。馬の体力に、リズム、地形も考慮して戦略を立てる」
レオノールの心中を知ってか、馬の歩法を常歩まで落として、クラウディオは振り返る。
レオノールの馬も、それに倣って足を緩める。
クラウディオは勝敗の決め手を解説してくれているらしい。
思考がまとまらず、どこかモヤモヤする。
だが、勝負を挑んだのはレオノールだ。
潔く負けを認めなければならない。
賞賛の言葉をかけようと顔を上げる。
と——
「俺の勝ちだな」
クラウディオは誇らしげに微笑んだかと思った。
だが実際には顔をくしゃりと歪めて無邪気に笑っていた。
目尻が少し下がり、頬が弛んで見える。
クラウディオの嬉しそうな顔が目に入った瞬間。
レオノールの全ての思考は吹き飛んだ。
(わらっ、た——?)
ズキューーン
本来聞こえるはずのない音が、鼓膜を震わせ、レオノールの胸を貫いた。
氷の彫像とも呼ばれたクラウディオが、歯を見せて笑っている。
まさかの敗北は、確かにレオノールに打撃を与えた。
しかし、それだけでない何かが、レオノールの頭のてっぺんから爪先までをしびれさせた。
クラウディオを初めて見た時には、何と美しく、完璧な美貌だろうと惚れ惚れした。
堂々たる振る舞いに、この人が欲しいと思ったあの日よりも遥かに淡い。
柔らかくて甘やかな感情にレオノールは絡め取られていた。
心臓よりもっと奥の、秘められた場所を羽毛で撫でられたように、しびれて動けない。
レオノールはこの日初めて、正真正銘の恋に落ちていた。
***
レオノールは、馬上で呆然としたまま固まっていた。
頬を撫でる風が止まって見えるほど、鼓動だけが大きく響いている。
(どうしよう……心臓が、痛い)
敗北のせいじゃない。
クラウディオが笑った――ただ、それだけで。
勝負は終わったのに、呼吸が落ち着かない。
馬から降りようとして、鐙を外す動作すらぎこちなくなっていた。
いつもなら軽やかに跳ね降りるのに、今は身体が鉛のように重い。
クラウディオは勝利の余韻に浸ることもなく、手綱を整えながら湖面を見ていた。
その背にはどこか、晴れやかさが宿っている。
勝った喜びだけではない。
彼の中で何かが報われたような、ほっとした息の色が混じっていた。
「クラウディオ様、馬……繋ぎましょうか」
(あれ……どうなっちゃったの、私。身体がいうことを聞かない)
できるだけ平静を装って声をかけ、背を向けた。




