表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚  作者: きぬがやあきら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
83/90

恋の足音 2

 どこで、何を間違えた?


 己の呼吸音がうるさくて、嬉しいのか悔しいのかも判断できない。


「スピードだけが勝負の決め手ではない。馬の体力に、リズム、地形も考慮して戦略を立てる」


 レオノールの心中を知ってか、馬の歩法を常歩(なみあし)まで落として、クラウディオは振り返る。


 レオノールの馬も、それに倣って足を緩める。


 クラウディオは勝敗の決め手を解説してくれているらしい。


 思考がまとまらず、どこかモヤモヤする。


 だが、勝負を挑んだのはレオノールだ。

 潔く負けを認めなければならない。


 賞賛の言葉をかけようと顔を上げる。


 と——


「俺の勝ちだな」


 クラウディオは誇らしげに微笑んだかと思った。


 だが実際には顔をくしゃりと歪めて無邪気に笑っていた。


 目尻が少し下がり、頬が弛んで見える。


 クラウディオの嬉しそうな顔が目に入った瞬間。


 レオノールの全ての思考は吹き飛んだ。


(わらっ、た——?)




 ズキューーン




 本来聞こえるはずのない音が、鼓膜を震わせ、レオノールの胸を貫いた。


 氷の彫像とも呼ばれたクラウディオが、歯を見せて笑っている。


 まさかの敗北は、確かにレオノールに打撃を与えた。


 しかし、それだけでない何かが、レオノールの頭のてっぺんから爪先までをしびれさせた。


 クラウディオを初めて見た時には、何と美しく、完璧な美貌だろうと惚れ惚れした。


 堂々たる振る舞いに、この人が欲しいと思ったあの日よりも遥かに淡い。


 柔らかくて甘やかな感情にレオノールは絡め取られていた。


 心臓よりもっと奥の、秘められた場所を羽毛で撫でられたように、しびれて動けない。


 レオノールはこの日初めて、正真正銘の恋に落ちていた。




 ***




 レオノールは、馬上で呆然としたまま固まっていた。


 頬を撫でる風が止まって見えるほど、鼓動だけが大きく響いている。


(どうしよう……心臓が、痛い)


 敗北のせいじゃない。


 クラウディオが笑った――ただ、それだけで。


 勝負は終わったのに、呼吸が落ち着かない。


 馬から降りようとして、鐙を外す動作すらぎこちなくなっていた。


 いつもなら軽やかに跳ね降りるのに、今は身体が鉛のように重い。


 クラウディオは勝利の余韻に浸ることもなく、手綱を整えながら湖面を見ていた。


 その背にはどこか、晴れやかさが宿っている。


 勝った喜びだけではない。


 彼の中で何かが報われたような、ほっとした息の色が混じっていた。


「クラウディオ様、馬……繋ぎましょうか」


(あれ……どうなっちゃったの、私。身体がいうことを聞かない)


 できるだけ平静を装って声をかけ、背を向けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ