追憶 5
「……これまでと同じなら、ひとしきり暴れた後はすぐ快方に向かいます。ただ……これは僕の勝手なお願いですが、回復してもしばらくは事実を伏せてもらえませんか」
「それは、レオノールの回復を隠せという意味か?」
「殿下を信じないわけではありませんが、特殊な能力が周知されれば、レオにとってより面倒な状況になりかねません」
優れた武勲を立てれば賞賛を受けるが、過ぎれば異端になる。
力が強すぎれば恐怖の対象にもなりうる。
偉業と異端は表裏一体だ。
「それに、持っている手札は隠すのが常套手段でしょう」
セレスの言いたいことは分かる。
わざわざ他所の国の使節団が来ている時に、手の内を明かす必要はない。
「わかった。お前の提案を聞き入れよう。レオノールの回復に関しては外部に漏らさないよう、徹底させよう」
「ありがとうございます。ではこれで」
セレスはぺこりと頭を下げて、退出した。
部屋に残されたクラウディオはしばし呆然として、己の愚昧さを呪った。
ノロノロと部屋の中心まで進み、ベッドに腰掛ける。
勇者を妻に迎える重大さを、本当の意味で理解していなかった。
目先のプライドにばかり気を取られ、レオノールを疎外する事しか頭になかった。
彼女は国の護り神たりえるが、誰も彼女を護れない。
(ーー俺に、できるだろうか)
今は平和が続いているが、有事があれば、レオノールは頼りにされる。
クラウディオの両親からしてみれば、利害のためにレオノールを王家に引き入れた部分も大きい。
王侯貴族は感情だけでは動かない。
結婚に賛成した貴族も、損得を計算に入れている。
今までは知っていて、それでも尚どうでも良かった。
周囲が勝手にレオノールをクラウディオに当てがって、王太子妃に祭り上げた。
自分も王族の一員として、受け入れないわけにはいかない。
婚姻関係を続けていれば、自分の義務は果たされると信じていた。
高慢にもほどがある。
レオノールはきっと全部わかっていた。
(……いや、全部は言い過ぎだ。きっと、全部を承知するほどの知識はないだろう)
たぶん。
誰に聞かれた訳でもないのに、クラウディオは胸中で否定した。
けれど、実際には妃として要求される努力に文句も言わずに応え、クラウディオに準ずる姿勢も見せた。
レオノールにあったのは、覚悟だ。
レオノールと向き合うのに、自分はあまりにも未熟だった。
(俺に護れるのか。いや、やるしかない。できるとしたら、俺しかいない……)
レオノールは心底ではセレスを一番の頼りにしているかもしれない。
けれど王太子妃となった以上、セレスの助力には限界がある。
陰日向から手段を講じ、危機を回避する役割はクラウディオにしかできない。
レオノールが、どのような理由であれ自分を慕ってくれているのなら、その気持ちに応えよう。
クラウディオの心境はたった1日の間に様変わりしていた。
何故なのか。
その理由に薄々勘付いていながらも、もう少しだけ気付かないふりをしたかった。
きっと自分はこれから否応なしに、彼女に翻弄されるのだろうから。




