追憶 4
「それから、毒性のある敵に遭遇すると、レオは率先して最前線に立つようになった。僕らが食らうより、自分の方がダメージが少ないからって。でも、耐性があるだけで無敵なわけじゃない」
セレスは声のトーンを下げた。悲痛そうに眉を寄せる。
「毒性が強ければ強いほど、ああして苦しむ時間が長くなる。魔王を倒したことだって勇者だとか、神の御業とか言われてるけど、そんな華々しいものじゃない。ひたすら敵の力を削って、息の根を止めるまで諦めなかっただけなんだ」
そこまで聞いて、セレスが伝えたい何かが、理解できた気がした。
魔王との決戦はおよそ2カ月に及んだ。
瀕死に陥り撤退し、回復したらまた挑むの繰り返し。
戦闘職はセレスの他にもう一人、斧を操る戦士がいた。
後衛には高度な術を操る魔法使いと僧侶のコールヴァンがいた。
初太刀を浴びせ突破口を開くのはレオノールで、回復役を守りながら戦う。
セレスらは交代で補助魔法や回復魔法で援護し、撤退のタイミングを見極めた。
最善の戦術だったとは思う。
だが、同時に非情な作戦でもあった。
人間なのだから傷付けば痛みを感じるし、恐怖も記憶に刻まれる。
回想を終えたセレスは沈黙した。
クラウディオはレオノールの壮絶な過去を前に、相づちを打つことすらできなかった。
レオノールは凱旋後の労いの場で、父アルフォンソに軽く答えていた。
「辛かったけど、頑張ってよかったです。美味しいご飯もお腹いっぱい食べられましたし」
あの時浮かんでいた晴れやかな笑顔は紛れもなく本物だろうが、その陰にどれほど深く暗い苦悩があっただろう。
レオノールが自ら口にした”辛い”の言葉の意味を。
当時は気づきもしなかった。
「……肝に銘じておく」
今語られた何百倍ものエピソードが、セレスとレオノールの間にはある。
レオノールの体質について語る予定だったのに、思い出話を聞かせたことには理由があるのだろう。
「殿下が、ここまでレオノールに付き合ったと知って、正直驚きました」
それは、錯乱するレオノールを抑え続けた行為に対する驚きか?
”ここ”は何を示すのか。
ふと壁際に置かれた姿見に目をやると、酷い格好のクラウディオが目に入る。
頭髪は嵐の中を潜り抜けたかのようにぐちゃぐちゃで、身に纏うシャツはボタンが飛び、所々がちぎれて肌が覗いている。
想像していた以上にひどくて、こんな姿を晒している自分に羞恥すら覚える。
今更ながら、話を聞く前にどうにかすべきだったと後悔し始めると、セレスは進み出た。
「今までレオにもみくちゃにされるのは、僕の役割だったのに……」
ずっと苦しげな仏頂面だったのに、今になってふっと口元を緩めた。
言いたいことを語りきれたからか、どことなくすっきりとした顔をしている。
クラウディオに向けて手を差し出すので、握手でも求めているのかといぶかしむ。
「レオって不思議なんですよね。何にも考えていないようで、全部わかってる」
するとセレスの掌から光の粒子が浮き上がって、それがクラウディオの全身に移る。
途端に身体が、ふわりと軽くなる。
身体のあちこちにあったひりつきや疼痛も消えたようだった。
「お前も疲れているだろうに。1日のうちに二度も世話になるとは、すまない」
直接触れなくても、魔法はかけられるようだ。
クラウディオは無意識に、一番疼痛を感じていた首の後ろに手を回す。
触れても、痛みはない。




