追憶 2
「捕らえたのが死体なら、毒の正体は分からずじまいか。医師には”毒も薬も効果がないようだ”と匙を投げられたが、お前の見立てはどうだ。何か知っているのか」
「申し訳ありません。力及ばず……暗殺が発覚してから捕縛するまでの時間差を考えると、非常に即効性の猛毒のようです。聞いた話ですと、妃殿下はかなり錯乱した様子だったとか」
報告を聞く間中、セレスは表情に出さないよう努めていた。
今もクラウディオに叱責されることを覚悟したような態度だったが、クラウディオには非難する気はない。
「謝らなくていい。それより見立てを聞かせてくれ。残念ながらレオノールの体質について、この城の誰も分からないんだ」
複雑な心境だ。
レオノールの体調を理解できる者が一人もいないなんて。
それも場末の医療所ならまだしも、優秀な人材の集結する国家の中枢にだ。
世界中を救った英雄を、この国の誰も救えないなど、無力さに薄ら寒くなる。
「では、私はこれで。明朝までにリストを用意しておきます」
話が長くなると見たのか、エルネストはサッと退室した。
「レオ……妃殿下は、暴れたのでしょう。とても」
扉が閉まるところまで見届けて、セレスは口を開いた。
その表情はどこかに呆れを含んでいる。
薄く浮かんだ笑みには哀れみにも似た同情心が滲んでいるようでもあった。
「その口調だと、お前はこうなるだろうと予想していたんだな。彼女の呼び名は自由にするがいい。今は俺と二人きりだ。古い仲なのだろう」
「……ええ、物心ついた頃からずっと一緒でした。多分、この世界でレオのことを一番よく知っているのは僕でしょう」
セレス・アルバレスは入団してからこれまで、勤務態度は至って真面目だ。
どちらかと言えば寡黙で内向的にさえ見える男だった。
他の団員とも、意思の疎通は過不足なくこなすが、それ以上に誰と親しくするでもない。
何のために騎士団を志したのか、何を考えているのか、読みきれない部分があった。
だが、ここへ来てそれが明らかになる。
セレスはレオノールを追って、騎士団への所属を希望した。
クラウディオが許可したとはいえ、セレスはレオノールを堂々と愛称で呼んだ。
セレスがレオノールに特別な感情を抱いていると、言外に語っている。
「レオに毒の耐性があると知ったのは、6歳の時です。うちは薬屋を営んでいるんですが、害獣避けの毒団子を誤って口にして……」
セレスは唐突に、レオノールの過去を語り始めた。
冗談のような逸話に思わずぎょっとしかけるが、セレスの表情は大真面目だった。
鍛え抜いた顔筋で小難しい顔を作り、クラウディオは黙って耳を傾ける。




