帰城 3
馬車が主城門をくぐり、家臣らが殺到した。
先行して使節団の避難客が帰着していたので、既に城内は騒然としていた。
そこへ錯乱状態の王太子妃が運ばれて、いよいよ蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。
ましてやレオノールは魔王討伐の英雄”勇者様”だ。
否が応にも注目が集まる中、暴れるレオノールを3人がかりで運んだ。
やっとの思いで医師が鎮静剤を投与したが、ほとんど効力を発揮しなかった。
「妃殿下は毒を分解する特性をお持ちだそうですので、薬効も作用しないのかもしれません……」
医師にも匙を投げられ、寄る辺のない気持ちで、しかしクラウディオは懸命に《《介抱》》を続けた。
仮にも王太子妃をベッドに縛り付けるわけにはいかないし、押さえつける行為も気が引けるのか任せられる者もない。
ようやく小康状態に漕ぎ着けるまでには半日かかった。
寝室から一歩も外に出ていないにもかかわらず、その頃には2人とも汗だくの満身創痍になっていた。
「……鎮まった、のか……? レオノール?」
全身を使って暴れ続けるレオノールを、クラウディオもまたベッドに身を乗り上げて押さえつけていた。
気づけば抵抗を止めていたレオノールから、そろそろと身体を起こす。
そのまま手を離して、立ち上がるつもりだった。だが、身体が強張ってうまく動かない。
「くそ、鍛錬不足だな……」
悪態をつきつつ、身体の位置をどうにか変えて、レオノールを見下ろした。
ぐしゃぐしゃに乱れたベッドの上で、レオノールは仰向けに四肢を投げ出した姿勢で胸を上下させている。
健やかとは言い難いが、しばし観察を続けていると一定の間隔で呼吸を繰り返していた。
先ほどまでの剣幕が嘘だったかのように、ただ眠っている状態に戻っているようだ。
今朝は綺麗に結われていた髪は汗を吸って湿り、おくれ毛が顔に幾筋も貼り付いている。
長い時間飲まず食わずだったせいか、唇は乾いていた。
「君の侍女は……戻っていたな。メリッサ、控えているか?」
上半身を支えて、用意されていた吸飲みで唇を湿らせてやる。
それでも何の抵抗もないので、ひとまず落ち着いたとみていいだろう。
錯覚かも知れないが、顔色も射られた直後より回復しているような気がする。
声を掛けると「はい」と戸外から返事があった。
すぐに扉が開いて、メリッサが入室した。
「殿下。レオノール様は……」
レオノールの有様を目の当たりにして、メリッサは息を呑んだ。
クラウディオが制止する間もなく駆け寄ってきて、恐る恐るクラウディオの顔を窺い見る。
「ひとまずは落ち着いた……と思う。酷く汗をかいているし、一度服を取り替えてやってくれ」
「かしこまりました……! レオノール様、おいたわしいお姿で……」
クラウディオの腕をどかして代わりに身を屈めると、メリッサは優しくレオノールの頬を拭った。
涙声になりながらもテキパキと支度を始める。相当に心配だったたに違いない。
レオノールは先刻から一変して、身動ぎひとつせずに眠っていた。
クラウディオはしばらくその様子を見守っていたが、ブラウスのボタンに指がかかったところでベッドから降りる。
「レオノールの病状に関しては予測できないが、俺は隣の部屋にいる。扉は開けたままにしておくからーー」
落ち着いたと見せても、またいつ暴れ出すかは予想がつかない。
メリッサにはなす術がないだろうから、クラウディオは自分の寝室で待機するつもりだった。
しかしそこで、ノックが聞こえてクラウディオは言葉を止めた。




