帰城 1
王城へ帰還する馬車の中で、レオノールは火がついたように暴れた。
「うっ、ああ……うああ!」
一度は仮死状態かと危ぶむほど静かに目を閉じていたのに、予想を覆す生体反応だ。
「痛むのか!? 止めるんだ」
「ううぅ……熱い、熱ぃ……っ」
客車に横たわり、揺られているうちに、レオノールは左肩を掻きむしる仕草を繰り返すようになった。
「どうした? 気がついたのか」
狩猟会場に控えていた医師には、どうすることもできなかった。
刺客の一人は自害し、毒の種類を聞き出す術もない。
他の刺客は捜索中で、発見を待つよりも先に帰城する道を選んだ。
会場のほうは副団長のエルネストが近衛と協力し、態勢を整えてくれていた。
そのため予想以上の混乱もなく、順調に避難を進めていた。
「そんなことをしたら、また傷になるぞ。止せ」
レオノールが座席から落ちないよう見守るため、クラウディオは膝の上にレオノールの頭を乗せていた。
右腕を軽く押さえても、掻きむしる動作を止めない。
立てた爪がブラウスの上から皮膚に食い込む。
「……だって……あつい、痛いから……っ」
言葉は発するものの、目は閉じたままだった。
無意識の行動か。意思の疎通はできそうにない。
錯乱しているようだ。
布地が破けそうな勢いに、クラウディオは再度手首を握り直した。
けれど、レオノールは止めるどころか、ますます動きは激しくなる。
「痛むんだろうが落ち着け。もっと悪化するぞ」
「いやっ! ……ううぅ、痛い! 熱いの、ここ。背中まで燃えちゃう、抉り取って!」
体内で暴れる毒をどうにかして掻き出そうとしているのか。
(いけない……だがどうすれば)
必死の抵抗は痛々しい。
一体どれほど苦しんでいるのかと想像し、クラウディオまで痛みを感じるほどだ。
普段は明朗快活そのもので、レオノールが辛そうにしている姿など、見たことがなかった。
その分、余計に苦しむ姿は痛々しい。
「駄目だ、きっとすぐに回復する。それまで耐えるんだ。自分の身体を傷つけてはいけない」
助けたくとも、クラウディオにはどうしてやることもできない。
レオノールの身体にどれくらいの解毒力が備わっているのかも未知数だ。
ただ、回復できると信じるしかない。
城に戻って、薬学に精通している医師を呼ぶ。
或いはセレスたちが毒の種類を突き止め、解毒方法を割り出すのを待つか。
どちらにしても、自分は無力だった。
そもそも本当に毒なのかどうかすら、クラウディオには分からないのだ。
間違いないのは、レオノールが魔獣を倒しクラウディオを救ったこと。
アルヴァロを庇って矢を受けたことだけだ。




