魔獣襲来 3
直撃はしたものの、硬質な皮膚は傷ついていないようだ。
並の剣では刃が立たない。
以前クラウディオが似たような魔獣を倒した際は、一頭の首を落とすのに15人が連携して戦った。
「いいタイミングだ、クラウディオ殿!」
鉄製の剣はボロボロになり、半分以上が使い物にならなくなった。
それも、魔物相手を想定して鍛えられた騎士団専用の武器だったにもかかわらずだ。
相応の距離で停止したアルヴァロがクラウディオを激励する。
お門違いだが、怒っている間も惜しい。
「従者よ、早くアルヴァロ王子を退避させよ」
クラウディオは遥か後方で震えながら矢をつがえる従者を叱咤した。
アルヴァロの太刀筋は悪くない。
しかし、何よりも大切な戦況を正しく把握できていない。
「どうしました? よほど大物でも……おおっ」
「うわぁ、魔獣だあっ!!」
そうこうしているうちに、騒ぎを聞きつけたのか他の参加者が2名現れた。
クラウディオたちが対峙している”獲物”の正体に驚愕し、叫ぶ。
悲鳴に呼応するように、魔獣が咆哮を上げる。
「うわっ……どうどう……うわぁああっ」
「ミジュア、マルゴ、落ち着け!」
アルヴァロがその二人を魔獣から庇うように馬首を返す。
現れた二人はノーキエ側の使節団員だ。
一人は馬が怯えて前脚を振り上げたために、落馬した。
主人を振り落とした馬は、そのまま高い嘶きとともに逃げ去る。
「で殿下、魔獣です。こんなところに、あわわ」
もう一人はなす術もなく馬上で声を震わせる。
アルヴァロ一人でさえ、統制が取れず対処に手を焼いていたのに、事態は悪化した。
(このままでは、全員危ない。応援はまだか)
「とにかく距離を取るんだ! アルヴァロ王子、その人を乗せて退避を」
「くっ、やむを得ん。ミジュア、立てるか。こちらへーー」
気を逸らしていたアルヴァロだったが、家臣の危機を前にようやく気持ちを切り替えたようだ。
正面を向いたまま、馬を後退させる。
彼の勇ましさは認めるが、今は大人しく従って欲しい。
クラウディオはエルグランの王子として、ノーキエ人を誰一人として傷付けさせるわけにはいかない。
だが、魔獣は当然こちらの都合に構ってくれない。
グオウと大きく吠え、頭を低く構えたかと思うと勢いよく地面を蹴った。
標的はアルヴァロだ。
「伏せろ!!」
弓では奴の突進を止められない。
咄嗟に判断したクラウディオは自らも馬を駆り、目前まで迫ったところで愛馬を解き放った。
鞍を蹴って跳躍し、魔獣の背後へ。
落下しながら短刀を突き立てる。
グワァアアン!!
短刀は浅いながらも、確かに縦一文字の傷を魔獣の背中へ刻んだ。
魔獣が暴れる前に、背中を蹴る勢いで距離を取る。
幸いにも敵の注意はクラウディオに戻った。だが、即座に体勢を立て直せない。
魔獣は左足を軸に急旋回して、大きく鉤爪を振りかざす。




