魔獣襲来 1
「エルメ、急ぎ応援をかき集めて来い! ロジェは広場へ戻り避難を呼びかけろ!!」
クラウディオは手綱を放棄して、足で馬を駆る。
先程までけたたましく吠え挑んでいた猟犬は、遠巻きに身構えながらも後退するばかりだった。
今しがたの獣のひと凪ぎで、すっかり萎縮している。
「あれは、私の獲物だ! 手出しは無用」
「獲物ではない、あれは魔獣です。アルヴァロ王子は退避を!!」
叫ぶアルヴァロを無視して、クラウディオは矢をつがえた。
渾身の力で弓を引き絞るが、背中に命中したはずの矢は皮膚を貫くも、致命傷には至らない。
標的は熊ーーいや。
推定1.2tはありそうな巨体はまるで熊のようだが、恐らく違う。
体長は馬上のクラウディオと変わらない。
毛並みは煤けた鉄屑のように剛性で、口からは煙のような黒い靄が漏れている。
あれは、瘴気だ。
クラウディオの命令を受けた2人は、弾かれたように左右に散った。
その場に残るはクラウディオ、アルヴァロとアルヴァロ付きの従者。
それと、ほとんど気力を失った猟犬が3匹。
人の歩く道もない森の中、クラウディオたちは熊の形に似た魔獣と対峙していた。
先に遭遇したのはアルヴァロで、クラウディオはアルヴァロ付きの従者の悲鳴を聞きつけ、駆けつけた。
それぞれが連れていた猟犬は果敢にも飛びかかったが、一頭が易々と弾き飛ばされた途端、全頭が色を失った。
「魔獣ならば尚更のこと、ここで倒さねば被害が広がる!」
ガッ
と鈍い音を立て、アルヴァロの放った矢も熊のような獣の皮膚を叩く。
が、こちらは弾かれた。
角度のせいもあろうが、やはり自然の生物ではなさそうだ。
熊に限らず、少し前まではあのような個体は珍しくなかった。
魔に憑かれた獣、それを魔獣と呼ぶ。
(なんたる失態だ。あのような危険を見逃すとは……!)
今回の狩猟会はノーキエの国使団を迎えての大きな催しだ。
狩場は事前に騎士団が入念に調査を行なっていた。
熊の姿を模った魔獣は弓矢で肩を叩かれ、ギュルっと首を巡らせる。
「単騎で魔獣を狩るなど不可能! 俺が惹きつけますので、アルヴァロ王子はお逃げください!」
魔獣は魔王が力を漲らせると凶暴化して多数出現する。
だから魔王が滅んで以降は、その数をめっきり減らしていた。
魔獣の退治も騎士団の重要な任務だ。
クラウディオも幾度となく、騎士団を率いて討伐を重ねた。
(応援が来るまで、持ち堪えねば)
今のクラウディオはかなり無防備な姿だ。
狩り用の短剣を差してはいるが、恐らくこれでは歯が立たない。
エルメの大剣を借りておけば良かったが、後の祭りだ。
熊型の魔獣は威嚇のつもりか、咆哮を上げる。
「どこを向いている、お前の相手は俺だ!」
ビリビリと衝撃波が走り、馬が怯む中、クラウディオは挑発のために短剣を抜く。
振るいながら、叫んだ。
しかし、アルヴァロは簡単には退かない。




