蜂のイタズラ 4
当然、驚きもしない。
むしろ、ちょっと……
(この子、ばかなの……?)
と、呆れてしまう。
皮肉勝負ならレオノールの分が悪いが、暴力行為で歴戦の勇者がビビることはまずない。
力勝負で脅かして良いなら、レオノールがやりたいくらいだ。
怒りのあまりつい、扇を折ってしまった可能性も考えられる。
だが、人前で破壊衝動を抑えられないのなら、余計に妃の座はふさわしくない。
「カ、カナリーさん。ご加減が悪いのでしょう? もう、失礼しましょう」
声を絞り出して、レオノールとカナリーの間に割って入ったのはフランチェスカだった。
レオノールの視界からカナリーを隠そうとするが、できない。
レオノールの身長が飛び抜けて高いため、上からの視線を遮れない。
それを察した残りの3人が、慌ててカナリーを囲む。
「参りましょう。カナリー様。私の手につかまってください」
「それではレオノール様、わたくしたちはこれで、失礼いたします」
この機を逃すまいとして、4人はカナリーを囲む山となってその場を辞した。
カナリーも黙っていたし、令嬢たちの気持ちを考えれば、それ以上追う気も起きない。
ただ、黙って手を振って、見えなくなるまで見送った。
何となく、他の4人には好意が持てたから。
テーブルに戻って、ポットを手に取った。
ポットには半分くらい茶が残っていたが、すっかり冷めている。
それも飲み干して、改めて広場を見回した。
空は爽やかなコバルトブルーで、綿をちぎったような雲が尾を引いて、所々に浮かんでいる。
日差しは柔らかく、恰好の狩り日和だ。
来客も打ち解けて、あちらこちらで談笑している姿が見られた。
一先ず、イベントは順調に盛り上がっているのではなかろうか。
成功している手応えを得て、視線を元の位置に戻すと、件の東屋の陰で柔らかな銀髪が揺らめくのが見えた。
纏っているのは青地の布に隊服だ。
見覚えのあるシルエットを認識して、レオノールはようやく一連の出来事に得心した。
「騎士様みっけ。こんなとこで油を打ってていいの、セレス?」
「バレた? いや、失礼しましたレオノール妃殿下」
東屋のすぐ裏は森になっている。
木の裏に隠れていたのは銀髪の騎士様となった、セレス・アルバレスだ。
レオノールの幼馴染にして、勇者パーティの頼れる相棒だった男だ。
「それ、こないだ練兵場で会った時も思ったけどやめてくれない? あんたに改まって呼ばれるの気持ち悪い」
視線だけを巡らせて周囲に人気がないのを確認し、セレスの呼びかけを制止する。
木立の裏に回り込んだ。
これなら広場から、簡単には見えないはずだ。
「こっちに来て平気なの? お妃様がいなくなったら騒ぎになるよ」
「少しくらい大丈夫よ。あらかたご挨拶は済んでるし、お察しの通り、一部の人にはあまり好かれてないから」
「腹立つなあ。わかってるのにどうして平然としてるんだよ」
口を尖らせて、気取らないセレスの姿に、レオノールはぷっと吹き出した。
セレスは一年前から、いやそれよりもずっと前から変わっていない。
レオノールの身の上をレオノール以上に案じ、時にはこうしてレオノールよりも先に怒ってくれる。
頼もしい親友だ。
「平然とはしてないよ? けどあれ、セレスが蜂をけしかけたんでしょ。だから先に仕返しも済んでるっていうか……でも蜂なんて危ないわよ」
「けしかけたんじゃなくて、羽音を聴かせて脅かしただけ。あいつ、自分の立場がわかってないんだ」
「アイツって、カナリー嬢? あの子が何か言ってたの?」
「挨拶だよ。行く必要ないって、私たちとお近づきになりたければ、レオからこっちに来ればいいって偉そうに話してたんだ。何様だよ!? レオは王子のお妃様だろ。それにこんな風に外で呑気にお茶していられるのだってレオのおかげなのに」
レオ、と一言呼ばれるだけで、ここ一月の時を遡り昔のレオノールに戻ったような、ふわっと軽い気持ちになる。
「私だけのおかげじゃないけどねー。怒ってくれて、ありがと」
ほんの一時王太子妃を忘れて笑えば、セレスは驚いたような顔をして、白磁の頬をピンクに染めた。
「なあに、どしたの、その反応」




