不本意な賭け 2
そんな風に不機嫌になるなら、勝負なんて受けなければよかったのに。
「どちらにせよ、俺が勝つ。今のうちに、明日の予定でも立てておくんだな」
「まーーーっ!」
クラウディオは突き放すように言い残し、踵を返して他の参加者たちのもとへと行ってしまった。
残されたレオノールは、腹立ちに地団駄を踏んだ。
今まで地団駄なんて踏んだことがなかったけれど、当たりどころがないとこんな風になるもんなんだ。
頭の隅で、無関係なところに感心しながら。
それでも”クラウディオ様なんて負けてしまえばいい”と憎まれ口を叩けないからもっと悔しい。
「レオノール様。外に参りましょう。長くはいられないのですけれど、何か飲み物を持って参りますから」
三者が揉めていると知っていて、見守っていたのだろう。
クラウディオの背中が見えなくなってから、そっと近づいてきたメリッサが穏やかな声で促した。
「えっ、メリッサどこか行っちゃうの?」
「狩猟会の間は小屋で厨房方のお仕事を手伝うことになっているので……」
「そっか。そうだよね、お仕事……。メリッサも頑張ってるのに、私ってば」
メリッサのお陰で、沸点まで来た怒りが急速にしぼんでいった。
そうだ。これは公務だったと思い出し、呼吸を整えながら広場に出た。
先に着替えを済ませていた使節団が参加者らと談笑しており、女性陣も既に待ち構えている。
クラウディオも例に漏れず、道中で5、6人のご婦人たちに捕まり、囲まれていた。
そこへガライ卿が現れて、何事かを打ち合わせる。
公式の場でクラウディオが女性に囲まれる姿は見慣れているはずなのに、今日は一段と不愉快な気持ちになった。
***
「それでは、皆様の奮闘を祈ります!」
でっぷりとした太鼓腹の男が宣言すると同時に、参加者の男性陣は一斉に散開して森へと分け入った。
狩猟大会が始まったのだ。
太鼓腹の男はこの国の宰相、マヌエル・ベラスコ公爵だったか。
今回この狩猟大会を取りまとめているとのことだった。
しかし、ガライ卿やら濃紺の騎士服姿の護衛を見るに、騎士団も警備に加わっているようだ。
姿を見ないから、森のどこかに配備されているのだろう。
広場や狩猟小屋の警備を務めるのは、要人警護を主とする近衛兵たち。赤い制服は目立つのですぐにわかる。
狩人が散開したので、ここからがレオノールの社交タイムだ。
国王夫妻は狩猟会には参加せず、実質の主催者は、王太子のクラウディオとなる。
後見人が王妃イザベルしかいないレオノールは、この場を介添えなしで乗り切らねばならない。
とはいえ、対処法は既にリュシエンナから伝授されていた。
通例であれば王太子妃の声がけを待つための列ができるから、順に挨拶を交わせば良いと聞いている。




