狩猟会 2
イザベルは婚約の内定時にレオノールに念を押した。
王妃自身はクラウディオとレオノールの結婚に賛成だったが、反対する意見も後を絶たない。
それらを捩じ伏せての婚姻だ。
3年経っても懐妊の兆しがなければ、反対勢力を抑え続けられない。
つまり、王太子妃の座を狙っていた勢力が、第二、第三の側妃を推す動きをイザベルでは止められなくなる。
そう言いたかったのだろう。
だからクラウディオがレオノールを疎外しているなんて、イザベルからしたら論外なのだ。
それなのにせっかく与えてくれたチャンスを、レオノールは自ら……。
過去の出来事を蒸し返しても、今更どうにもならない。
分かっていても悶々として、レオノールは湯に潜った。
(だって、分かってて飲ませるなんてできなかったんだもん。無理矢理なんて趣味ないし……。うん、ない。ないよね?)
胸中で呟き、自分で問いかけた。
媚薬云々はともかくとして、無理矢理クラウディオを手籠めにできるかどうか。
筋力的には多分、負けない。
でも、押さえつけたままどうにかできる気はしないから、どうにかして拘束せねばならないだろう。
縛り上げたクラウディオが屈辱に、あの美しい顔を歪ませ、潤んだ瞳でレオノールを睨み上げたら……。
(いやいやいやっ、ダメでしょ、それは絶対!!)
うっかり想像してみたら、それはそれで猛烈な興味に誘われて、慌てて否定する。
新たな扉を開いたら、余計に嫌われると結論づけて、レオノールは考えるのを止めた。
湯から顔を出すとパシッと頬を叩き、立ち上がる。
(ヘンなこと想像してる場合じゃない。昨日のチャンスはフイにしちゃったんだから、次のために備えるしかないのよ)
昨夜の過ちは次に生かすしかない。
「レオノール様、お髪がびしょ濡れですよ!? それに、お顔もっ」
湯上がり用のリネンを持ってきたメリッサが、慌てて駆け寄ってくる。
簡単に済ませるために髪を上げておいたのに、飛沫が散ってびしょ濡れになっていた。
「ごめんね、つい。色々悩ましくってさあ」
優しいメリッサはどんな悩みかも分からないのに「仕方がありませんね」と言って、大急ぎで身支度を手伝ってくれた。
***
さて、ところ変わってその日の狩猟会場にレオノールはいた。
とても、残念な心境で。
王太子妃レオノールはとてもとても、困惑していた。
「ここは、私も参加者に加えるところでしょう……? こんなに招待客がいるのに」
どんな顔をしてクラウディオと話そうかな、なんて乙女チックな悩みを抱いたのも一瞬だ。
狩猟大会に参加するのは男性だけ。
女性は会場に留まり狩人たちが獲物を持ち帰るまで待つだえけと聞かされて、レオノールは愕然としていた。
そこで絶賛抗議中だった。もちろん声はひそめていたけれど。
「歓迎を含めた狩猟会なのだから国内の貴族も大勢呼んでいる。ノーキエの従者だとて全員が参加するわけではないし、知っていると思っていたが」
「私が除け者だとは聞いていません。せっかくの腕の見せ所なのに」
「除け者も何も、そんな格好をしている時点で気づきそうなものだろう」
指摘の通りだ。
今朝の湯浴みで時間が足りなかったので、今日の髪型は巻きではなくサイドアップにし、華やかさを足そうと黒いレースのヘアドレスを載せていた。
衣装は狩猟会の趣旨に合わせて、レースフリルのブラウスにフーシャピンクのコルセットスカート。
スカートはシルエットが広がるようにチュールで膨らませている。
足元はかろうじてブーツだけれど、狩りに向いていないのは明らかだった。
「それはそうですけど、私なら大丈夫と期待されているのだと思っていたのです。もちろん大丈夫なので参加させてください」
クラウディオとレオノールは、用意された狩猟小屋から参加者の準備を眺めつつ話していた。
狩猟小屋は森の中の休憩所兼集合場所で、小屋と呼ばれているもののしっかりとした造りの立派な館になっている。
中央は広場になっていて、参加者はそこから狩りの準備をして出ていく。
広場では多くの観客が既に集まっていた。




