狩猟会 1
レオノール様、レオノール様。起きてください。
レオノールは聞き慣れた、優しい声に揺り起こされた。
「……ん? 朝‥‥?」
「もう少し寝かせて差し上げたいのですが、今日も公務が立て込んでおりますので、お支度をしていただかないと」
メリッサにそっと肩を揺すられて瞼を上げると、見慣れた自分の部屋の天井が目に入った。
「ごめん、寝過ごしちゃった? アレェ、私、随分な寝相で」
身じろぐと、シャラリと衣擦れの音がする。
ぼーっとした頭を掻きながら起き上がると、ハラリと夜具が落ちた。
見慣れない、濃紺色の掛け布。
……? ……、と頭の中に大きなハテナが浮かぶ。
「寝相、ですか? いつも通りかと思いますけれど……それよりレオノール様、おめでとうございますっ」
寝起きで頭が上手く働かない、レオノールとはあべこべに、メリッサのテンションはのっけから高い。
「お時間はあまりないのですが、湯浴みされますか? どこか、お痛いところなどありませんか?」
口調は妙にキャッキャとしているのに、心配も含んでいるようにも感じる。
「特にないよ? お風呂も……今何時?」
時計を探そうとして、ようやくレオノールはここがどこなのかを思い出した。
部屋の造りはほとんど同じなのに、装飾が全然違う。
(そっか、あのままクラウディオ様の部屋で寝たんだ。ソファで寝るつもりだったのに、ベッドに運んでくれたの?)
昨晩の記憶も蘇ってきて、カアッと頬が熱くなった。
愛する人に抱っこされるなんて夢のまた夢だったし、第一レオノールを抱っこしてくれる男なんていないと思ってた。
レオノールは筋肉質な上に長身なので、ものすごく重い。
多分、あまりクラウディオと変わらない。
クラウディオが鍛錬の賜物で持ち上げてくれたのだとしても、体重を知ってドン引きされていたらどうしよう。
レオノールが恥ずかしさと心苦しさで悶えていると、メリッサはその恥じらいを別の意味で理解したらしい。
「今朝、クラウディオ殿下は朝の訓練に向かわれる際、使用人室にお見えになって、伝言を残されたのですよ。レオノール様は殿下の部屋でお休みになっているから、起こす際はそちらへ行くようにと」
「クラウディオ様が、わざわざ?」
「ええ。ですからもう、西の棟はその噂で持ちきりです。レオノール様が殿下と一夜を過ごされたと。よかったですね」
キラキラしい笑顔を向けた後、メリッサは嬉々として掛け布を取り払う。
「今は5時を過ぎたところです。軽く、お湯も浴びましょう。今日の狩猟会は貴族のご令嬢も大勢列席されるそうです。完璧に装って、揺らがぬ地位を築き上げてしまいましょう」
「じゃあ、お願いしようかな」
メリッサは上機嫌で内扉からレオノールの部屋に戻り、浴室まで案内してくれる。
浴槽には既に湯が溜めてあるので、メリッサの中で入浴は決定事項だったようだ。
メリッサはレオノールがクラウディオと情を交わしたと誤解している。
(まあ、夫婦が同じ寝室で夜を明かせば、そういう風に捉えるよね)
まさか、皇后が用意した媚薬の効果で嫁が寝こけただけに過ぎないとは、誰も思うまい。
レオノールはちゃぷんと肩まで浴槽に浸かり、昨夜をできるだけ詳細に思い出そうと試みた。
クラウディオと過ごす時間は、何よりのご褒美だ。
くつろいだ姿のクラウディオも、悩ましい顔のクラウディオも、とても良かった。
今回は媚薬のイレギュラーで寝落ちしてしまったが、次はもうちょっと上手くやろう。
(使用人の皆に知らせたのは、皇后様への義理立てでしょう。そのほうが私にとっても都合がいいか……)
”ただし、3年の間です。私が王妃として、貴女の立場を守れるのは”
不意に、王妃イザベルと交わした約束が頭をよぎる。




