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「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚  作者: きぬがやあきら


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媚薬 1

 ジワリと胃袋が熱せられるような感覚で、すぐに疑惑が確信に変わる。


 次の瞬間には、レオノールは手を伸ばしていた。


「ぐっ、何だ、レオノール?」


 口元にグラスを運ぶクラウディオの腕を急に掴んだため、蜂蜜色の液体がパシャンと跳ねた。 


 パタパタと雫が指先から滴り、クラウディオは非難の声を上げた。


 何故、レオノールが止めるのかが分からず戸惑っている。


 その無垢な態度がことさら可笑しい。 


 本当ならちょっといい雰囲気になるところだっただろうが、レオノールは我慢できずに吹き出してしまった。


 皇后陛下の企みがわかったら、もう可笑しくて仕方がない。


「急に何をするんだ。溢れただろう」


「ごめんなさい。でもこれ、媚薬入りですよ。飲まないほうが身のためです」


 うくくっと笑いを噛み殺しながら種を明かした。


「は……?」


 クラウディオの眉間に皺が寄る。


 腕を掴んでいたレオノールの手を剥がしてから、グラスの中身に目を落とした。


 凝視しながら眉間の皺を深める。


「そんな馬鹿な話があるか。皇后陛下から賜った酒だ。滅多なことを」


「馬鹿じゃありませんよ。媚薬独特のくどい甘さと後味に微妙な苦味がありますもん。皇后陛下は一刻も早い私の懐妊を望んでいらっしゃいましたし、寝酒に媚薬を混ぜても不思議じゃありませんて」


 説明しながらも、皇后のお茶目心に笑いが止まらない。


 ご褒美に媚薬入りのお酒って。


 直接的すぎる労いに対する感想は人それぞれだけれど、レオノールなら喜ぶだろう。


 そう予想した皇后陛下の慧眼には平伏する。


 実際にその状況に置かれなければ具体的にはわからないが、もしも媚薬に侵されたクラウディオがレオノールを求めてくれたら……。


 それはそれで万々歳な気もする。


 しかし、そんな意図があるとはつゆ知らず、母親に媚薬を盛られそうになったクラウディオには失笑を禁じ得ない。


「まさか、陛下がそんな」


 まさに寝耳に水、といった体だ。クラウディオは空いている左手で口元を押さえていて、動揺を隠せない。


 生真面目なクラウディオだから、皇后の意を汲むべきかどうかで逡巡しているのだろう。


 風呂上がりの清らかな額に、汗が浮かび始める。


 汗の珠がこめかみを流れ落ちても、口を引き結んだまま微動だにしなかった。


 (今だったらーー誘惑すれば、堕ちてくれるかもしれないな)


 そんな悪巧みが一瞬頭をよぎる。


 しかし動揺っぷりがあまりに純粋に見えて、気の毒だと感じると同時に、初心な可愛らしさも感じる。


 立派な成人男性なのに、守ってあげたくなってしまう。


 たとえそれが、レオノール自身の毒牙からであったとしても。


「これは、私が頂きますね。せっかくの賜り物ですから」


 ヒョイ、とレオノールはクラウディオの手からグラスを取り上げた。


 月明かりに照らされキラキラときらめく黄金色の液体は、たゆんと魅惑的に揺れる。


 林檎ベースであるところが憎らしい演出だ。


 まさに、禁断の果実。


「どうしてこれが媚薬だなどとわかる。戯れに俺を揶揄っているのか」


「長く旅をしてると、そんな物にも触れる機会があるんですよ。宝箱に入ってたのをこっそりガメようとした私とセレス、コールヴァンがまんまと飲んじゃって」


 ゴクゴク……ぷはっ、とクラウディオの分のグラスを飲み干して、また笑う。


「セレスは自分で解毒できるから良かったんですけど、コールヴァンが大変なことに……! 薬が抜けるまで簀巻き・野晒しの刑ですよ。あれは怖かったー」


 腹の底がカッカと熱を持ってきて、ホワンと身体の緊張が緩み始めた。


 行儀が悪いと知りつつも、テーブルに肘をつき、手の甲に顎を載せる。


 異物が侵入するとレオノールの身体は勝手に毒成分の分解を始める。


 アルコールの分解速度が速いので、レオノールは滅多なことでは酒にも酔えない。


 だが、流石は皇后陛下が調達した媚薬だ。


 段々、気分が軽くなってほろ酔い気分になる。


 冒険中は、辛いこともあったが、振り返れば楽しかった。


 苦楽を共にしたみんな、今頃はどうしているだろう。


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