夫の寝室 4
レオノールの寝室とほぼ同じで、家具の位置を反転しただけの間取りだった。
しかし、月明かりが差し込む窓にかかるカーテンは無地で飾り気はない。
色味もシックに統一されているせいか、やや厳かな印象を与える。
机と椅子が一組と、ソファセットがあり、机のほうには厚めの本が3冊重ねられている。
(ここが、クラウディオ様の部屋……何だか良い匂いがする。あの本は、寝しなに読んでいるやつかな)
男性の部屋に入るのは初めてでもないのに、クラウディオのプライベートな空間だと思うだけで妙な興奮を覚えてしまう。
(くっ、こういうところが淑女らしくないのよね。ダメ、落ち着いて、レオノール)
机の手前に配置されたソファセットのテーブルには、揃いのグラスと飲み物のボトルが置かれていた。
ナッツを盛った小皿もある。
落ち着きなく、しかし挙動不審にならない程度に部屋を見回していると「そこへ」と促された。
ソファに座れという意味だ。
言われるがままソファへ腰を下ろす。
「クラウディオ様、これは」
「待て、俺がやる」
どうするべきだろうと尋ねると、クラウディオは渋面を浮かべながら隣に腰を下ろした。
距離の近さに、ギョッとしつつも胸が高鳴る。
「皇后陛下から、其方を労えと頂いたものだ。今日は、よくやってくれた」
そう言いながらクラウディオはグラスに液体を注いでレオノールの前に置いた。
「まあ。するとこれは、乾杯ですか。お疲れさま的な?」
「そう受け取ってくれて構わない」
戸惑いながらもグラスを手に取ると、クラウディオも軽くグラスを持ち上げた。
カチン、と小さく音が鳴り、薄暗い室内にガラスの澄んだ音が響く。
邪な予想が外れて残念な部分もあったが、クラウディオが労ってくれるなんて、まさかのサプライズ! だ。
皇后陛下は何て粋な計らいをしてくれるんだろう。
「ありがとうございます。とっても嬉しいです」
唐突に降って湧いたボーナスタイムに、レオノールは満面の笑みを浮かべた。
眠気も疲れも、一瞬で吹っ飛んでしまった。
「皇后陛下にもお気遣い頂いて、こんなにも素敵なものを頂くなんて……本当に嬉しく思います。クラウディオ様と一緒に過ごせる時間も」
そういえば謁見の間で、皇后陛下は仰っていた。
”努力を惜しまなかった者には相応の報いがあるものですよ”と。
そのように褒める気持ちと、実際に行動に移してくれることとは別物だ。
気が進まなくても労いに来てくれたクラウディオと、その両方がありがたくって胸が熱くなる。
クラウディオは母親に言いつかった経緯が後ろめたいのか「そうか」とだけつぶやいた。
「頂きます」
感激しながら軽くグラスを上げて、蜂蜜色の液体を傾ける。
ひと口含むと、甘くて優しい芳香が鼻腔に広がり喉を通った。
林檎の甘酸っぱい果実感、その後に焼けつくほどに甘ったるい香りと味が追いかけてくるーー
(ん? これ……)
ごくん。
異変に気付いた時にはもう、飲み下していた。




