夫の寝室 3
(なにこれ! 反則なんだけど!)
湯上がりで艶っぽいその姿を目にした途端に、頭の中が真っ白になりそうになるのを必死に堪える。
クラウディオはレオノールの叫び声が聞こえているはずなのに、躊躇することなく寝室に入って来ると扉を閉めた。
「鍵を……掛けていないのだな」
「え? か、鍵ですか」
レオノールは手持ち無沙汰に、ベッドの脇で立ち尽くした。
予告のない小さな声を聞きこぼしたくない。
しかしこの美しすぎる、寝巻き姿の夫にこれ以上近づいて良いものか悩む。
「だって、必要ないでしょう? 私にはクラウディオ様を拒む理由なんてない……のですから」
気が動転するあまり、正しい敬語が抜け落ちる。
その間にも鼓動は耳の奥でうるさく響き、せっかくこの1ヶ月で学んだ知識がどこかへ行ってしまった。
「ここは公の場ではない。言葉遣いは気にしなくても良い」
クラウディオは押し出すように、声を出した。
言葉の内容は親切なのに、とても苦しそうだ。
扉を背にしたまま、ちっとも動く気配がない。
「どうしたんですか? 何かご用があったのでは」
クラウディオはじっとこちらを見据えているけれど、その距離が縮まる気配はない。
そろり、と一歩近づいてみる。
「まさか、具合でも悪いのですか?」
室内はランプが2つ灯っているのみだ。
暗がりに紛れてしまって、判別がつかない。
顔色を確かめるべく近づくと、「そうではない」と首を振った。
「では、なぜ?」
レオノールはさらに詰め寄る。
寝起きのような無造作な格好をしているが、クラウディオはやはり端正だ。
近くで見れば見るほど美しい造形にドギマギしてしまう。
「今日の君の働きを労おうと思って来た」
「えっ……?」
一瞬聞き間違いかと思った。
だが彼の表情は真剣そのもので、冗談で言っているわけではないらしい。
「こちらへ来い」
その命令は有無を言わせぬ口調だが、決して威圧的ではなかった。
促されるままに足を進めて距離を詰めると、クラウディオはおもむろに閉めたはずの扉を開いた。
「俺の部屋に、用意がある」
「はい? 用意って……」
状況が捉えられず混乱していると、「こっちだ」と彼は短く促し、部屋を出ていこうとする。
レオノールは慌ててその後を追いかけた。
(え? え? どういうこと? 用意って。私の部屋でなくて?? そっちはクラウディオ様の寝室だけど……ってことは……もしかして)
そのとき脳裏に浮かんだのはとある可能性だった。
(まさか、これから初夜のやり直しをしよう。なんてこと)
あったりするんだろうか??
ワクワクとドギマギが混じり合う複雑な心境でついていくと、扉の先には未知の楽園――もとい、クラウディオの寝室が広がっていた。




