夫の寝室 2
「あ~、気持ちいー」
メリッサだって朝からレオノールにつきっきりで世話を焼いてくれていたのだ。
立派なお妃様の姿を最後まで見せたかったが、一人になった途端に眠気が襲ってくる。
「……なんだか疲れたなぁ」
ふかふかの寝具に顔を埋めながら呟く。一日が濃厚すぎたせいか。
つい先ほどまでの宴の賑わいが、ずっと遠い過去の出来事のように感じられる。
思い返せば、国使を迎える緊張に始まり、アルヴァロの挑発まがいの振る舞い、そして余興の披露。
最後は割れんばかりの拍手を浴びて、まだ耳の奥に残響が響いている。
「今日はよく頑張ったよ。自分を褒めてあげたい……でも、うーん。やり過ぎたかなぁ」
枕に額を擦り付けながら反省する。
自分なりには精一杯を尽くしたつもりだが、クラウディオは宴の間、終始難しい顔をしていた。
(でも、あの時は絶対、ビックリしてたはず)
謁見の間で目が合った時にわかった。
クラウディオは確かに、レオノールに目を奪われていた。
魔王討伐の祝賀会や、結婚式にもなかった反応だ。
(あれって……私に見とれてた、とかかなあ? ねえ、その可能性ある? あり得るよね)
あの冷徹王子が、確かに目を見張っていた。
一瞬だけ、青い瞳を揺らして、どうしたら良いかと困惑した。
どうだろう? 都合の良い解釈か。
いーや、きっとそうに違いない。
思い出すと頬がじんわりと熱くなる。
枕を抱き寄せて顔を埋め、にやにやと笑いがこみ上げて止まらなかった。
「うふふ……もしかして、ちょっとは興味を持ってくれたのかも」
勇者として幾多の戦場を駆け抜けても、恋の手ほどきは全く不慣れだ。
いつぞやリュシエンナが言ったように、クラウディオをレオノールに心酔させるための第一歩となり得ただろうか。
だったら大成功だ! 頑張った甲斐があった。
胸の高鳴りを持て余し、顔を左右に振っては枕に埋めて。
レオノールはまるで少女のように一人で悶えていた、その時だった。
――コン、コン。
突然、隣室との仕切り扉からノックの音が響いた。
「……え?」
びくっと顔を上げ、音のした方に向ける。
あの扉の向こうにあるのは、夫であるクラウディオの部屋だ。
つまり、あの扉をノックする人間は一人しかいないわけで。
(ちょ、ちょっと待って! まさか、クラウディオ様??)
反射的に跳ね上がり、乱れた髪を手櫛で慌てて整える。
鏡を見る暇はないが、最低限の見てくれは整えられたはず。
「クラウディオ様! お待ちください!」
制止の声をかけても遅く、扉は音もなく開かれた。
そこに現れたのは、紛うことなくクラウディオその人。
入浴を済ませたばかりなのか濡れたままのブロンドが月明かりにきらめき、昼間とは違って無防備に前髪が下ろされていた。
その姿にレオノールの胸は高鳴る。
いつも完璧に装っている彼の素肌やゆるんだ姿を見るのは初めてだ。
初夜の時もローブ姿だったが、あの時のクラウディオとはまともに言葉も交わしていない。
なんたるご褒美タイムか。




