家庭教師 5
「すごい洞察力ですね。家庭教師ともなると、お茶が出てるかどうかまでわかるんですか」
部屋に二人きりになったところで、レオノールは思い切って、 しかし表面上はさりげなく踏み込んだ。
リュシエンナが何をどこまで把握してここへ来たのか。
またレオノールについてどのような感情を抱いているのかを探るためだ。
リュシエンナは、レオノールのためのお茶もないのかと、遠回しにシャヘルを咎めた。
クラウディオに命じられたとはいえ、味方なのか、敵なのか、リュシエンナ自身の立ち位置が気になる。
「クラウディオ様から相談があったのです。王太子妃が《《あり得ない》》姿で城内を歩き回るので困っている、と。妃殿下付きの侍女がいるはずなのに、手が行き届いていないようだとも」
リュシエンナは眉根を寄せて眼鏡を押し上げた。
「実際にこの目で見て、呆れ返りました! 何ですか、そのお姿は。まるで見世物小屋のお猿さんのようではありませんか」
ビシリ!
声こそ荒げはしなかったが、リュシエンナの激高はレオノールに伝わった。
言葉の礫が叩きつれられるようだ。
これはまた、随分と手厳しい。
今まで仲間から「熊」だの「野人」だの揶揄されてきたが、「猿」呼ばわりは初めてだ。
ダルマのようなドレス姿のレオノールを見た瞬間の、あの冷徹な表情はそういう意味だったのか。
「すみません。面白がって彼女たちを放っておいたのは私です。ですのであまり怒らないでください」
「何を呑気なことを。私は妃殿下に対して憤慨しているのですよ」
「え? 私ですか」
思ってもみない展開にレオノールはぱちくりと目を瞬かせる。
「当然です。妃殿下が侮辱されるとは、クラウディオ殿下を侮っているも同義なのですよ」
「あの子たちがバカにしてるのは私だけですよ。どちらかと言えばクラウディオ様の味方です」
レオノールは咄嗟に否定した。
シャヘルたちはクラウディオを主人として尊重している。
クラウディオは新婚の初夜の時点ではっきりとレオノールを拒絶したし、それらは使用人たちの耳にも入っているだろう。
だからこそ、気に入らない妻であるレオノールに嫌がらせをして、主人の意趣返しをしているのだと思っていた。
あわよくば追い出してやろうとしているとさえ。
「愚かな! 殿下がそのような望みを抱いているとでも言いたいのですか? 不敬にもほどがありますよ!」
誤解を生まないようにとの親切心からだったのに、リュシエンナは今度こそ声を荒げた。
カッと目を見開き、眉を吊り上げる迫力に、レオノールはびくんと身じろぎする。
魔竜の咆哮にも眉ひとつ動かさない勇者をビビらせるのだから、只者ではない。
「殿下は私が天塩にかけてお育てした、高潔かつ清廉な人物です。個人の好き嫌いで女性の不幸を喜ぶような下劣な殿方と同列にするなど、言語道断!」
クラウディオを貶める解釈はレオノールの意図するところではなかったが、リュシエンナの意見も一理ある。




