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第64話:圧殺の檻:地下封鎖と「見えない道」

轟音。それは、論理世界ロジック・レイヤーの崩壊音ではない。俺たちの頭上にある「現実」が、文字通り圧し潰されていく音だった。

 ブラック・ボックスの天井が震え、隙間からコンクリートの粉塵が雪のように降り注ぐ。運営――ゼノン社は、遠藤が敗北したことを受け、地下というバグの温床を「物理的に埋め立てる」ことを決定した。


「……ハァ、ハァ……カレン、九条……。今、何が起きてる。……くそ、何も見えねぇ」


俺は暗闇の中で、虚空を掴む。

 『亡霊の共振』の代償として、俺の視神経は完全に焼き切れていた。光すら届かない、絶対的な闇。脳内に直接流れ込む九条のシステム・メッセージだけが、今の俺にとっての世界の解像度だった。


『……司。状況は最悪です。地下の全ゲートが、ゼノン社の建築用ナノマシンによって物理封鎖され始めています。彼らは地下を、数十万トンのコンクリートで固める気だ。……酸素の供給も止まった。あと三十分で、ここは墓場になる』


「……そんな、……あいつら、ここにいる人たちごと……!」


カレンの震える声が隣で聞こえる。彼女の手が俺の腕を強く掴んだ。属性を失い、存在が希薄になった彼女の体は、この粉塵の舞う物理的な絶望の中で、今にも霧散してしまいそうに儚かった。


「……九条、出口を探せ。……[BLACK] IDの権限を全部回せ。……俺の脳が、……溶けても構わない」


『……了解。ですが、通常のルートはすべて「厚さ三メートルの壁」で塞がれています。……唯一の希望は、カレンの「無」を利用した、物理と論理の隙間――“仕様の継ぎ目”を抜けることです』


スキル名:不可視の座標(Invisible Coordinate)

効果: 属性抹消されたカレンを起点に、物理的な障害物とシステム上の境界が「矛盾」している箇所を特定し、そこを0.1秒間だけ「通過可能なバグ」として定義する。


代償: ツカサの脳に強烈な過電流。カレンが「自分が人間ではない」という意識を深め、属性復帰がさらに困難になる。使用後、ツカサのPCの全通信ログが消失する。


「……カレン、俺の目になってくれ。……俺が、お前の名前を呼ぶ。……お前は、……俺を出口まで導け。……鏡に映らないお前にしか、……この檻の穴は見えないんだ」


「……わかったわ。……ツカサ。……私の手を、絶対に離さないで。……私が消えたら、……あんたは一生、暗闇の中よ」


カレンの冷たい指先が、俺の掌に食い込む。

 俺は彼女の存在を、脳内の[BLACK] IDを通じて必死に観測アタッチした。彼女が動けば、俺の脳内に一筋の蒼い光の線が走る。


「……そこ。……右よ。……崩れてきた鉄骨と、……コンクリートの間に、……まだ固まっていないパッチの隙間がある!」


カレンの声に従い、俺は目が見えないまま、崩落する瓦礫の山を駆け抜けた。

 背後で、かつてのブラック・ボックスが、重圧によってひしゃげ、押し潰されていく。

 

 何万もの「ゴミデータ」が、物理的な圧力によって物理的な火花を散らして消滅する。

 

「……ツカサ、跳んで!」


カレンの叫びと同時に、俺は虚空へ身体を投げ出した。

 肺に流れ込んできたのは、カビ臭い地下の空気ではなく、冷たく湿った、夜の雨の匂いだった。

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