第41話:闇のマネジメント:目利き令嬢と[GRAY]への試練
地下二階、廃棄されたデータセンターの廃墟。
そこには、マザーが管理する「闇の鑑定所」がある。
「……ツカサ、これ。……さっきから三回目なんだけど」
カレンが不機嫌そうに、通路にある旧式の自動販売機を指差した。
彼女がどれだけボタンを連打しても、自販機は「……?……」という電子音を出すだけで、商品を出す気配がない。
属性抹消パッチの副作用――彼女は今、システムから『背景』として定義されている。
「……無駄だ。……お前は今、歩く背景透過なんだよ。……人間がいないんだから、……商品は出ない」
「……っ、意味がわからないわ! コインは飲み込んだのよ!? 詐欺じゃない、この機械!」
カレンが地団駄を踏むが、その足音すら周囲の監視センサーには「空調のノイズ」として処理される。
かつての令嬢の威厳はどこへやら、今の彼女は「透明な不審者」だ。
『……司。……カレン・ゼノンの非効率な挙動を無視し、……前進を推奨。……マザーとの合流まで、……あと180秒』
スマホから響く九条の声は、どこまでも白く、冷たい。
人格整合性が崩れ始めた相棒は、カレンの不条理を「演算の無駄」として切り捨てようとしていた。
「……九条、……少しは合わせろ。……こいつは今、俺たちの生命線なんだ」
俺たちは奥の重厚な扉を開けた。
そこには、無数のジャンクパーツに囲まれたマザーが、巨大なモニター群の前に鎮座していた。
「……来たね、幽霊とバグ。……そして、名もなきお嬢ちゃん」
マザーは、家紋を失ったカレンを凝視し、ニヤリと笑った。
「……いい『無』だ。……これなら、ゼノン社の防壁すら『見落とす』だろうよ。……さて、[GRAY] IDへの昇格試験だ。……今夜のオークションに出される『廃棄ロット・LOT-42』……この中から、……本物の『九条の残骸』を見極めな」
【スキル名:属性外隠密(Invisible Noise:Attribute Zero)】
効果:属性抹消状態のカレンが、ツカサのパケットを自身の「存在しない空間」に包み込み、周囲のセキュリティシステムの認識率を10秒間だけ5%以下に低下させる。
取得条件:システム上の「属性」を完全に失ったパートナーと、心拍同期を維持した状態で敵陣に潜入する。
成長条件:本スキルを用いて、一度もアラートを鳴らさずに認証ゲートを突破する。
代償:
社会:使用中、現実の公共システムからも「存在」が抹消されるため、警察や救急車を呼ぶことが物理的に不可能になる。
機材:ツカサのPCに、存在しない座標を演算し続ける「虚数負荷」がかかり、使用後5分間、全てのスキル射程が半減する。
「……やるわ。……ツカサ、……私の視界(HUD)に、……解析ログを流して。……『本物』がどれか、……鳳凰院の眼で暴いてみせる」
カレンが俺の手を掴む。
彼女の指は冷たいが、その鼓動は、俺の胸に「逆襲」のリズムを叩き込んでいた。




