第42話:ロジック・アイ:ゴミの山に咲くバグの眼
闇オークション会場は、異様な熱気に包まれていた。
運び込まれた『LOT-42』は、ゼノン社が「汚染データ」として廃棄した、巨大なハードディスクの山。
その表面には、遠藤査察官が施したであろう、強力な「隠蔽パッチ」の痕跡があった。
「……ツカサ、……同期を強めて。……データが、……霞んで見える……」
カレンが目を細める。
俺はキーボードを叩き、彼女の視界に『共有視界(HUDシェア)』を最大出力で投影した。
【スキル名:論理の眼(Logic Eye:Trace Analysis)】
効果:対象の視界に、バイナリデータの「不純物(パッチの継ぎ目)」を可視化させ、1分間、偽造データと本物データの識別精度を80%上昇させる。
取得条件:データの真贋を見分ける「目利き(カレン)」と、それを解析する「脳」が、一つの目的のために魂を同期させる。
成長条件:このスキルを用いて、1%以下の確率でしか存在しない「レアログ」を特定する。
代償:
身体:ツカサに激しい鼻血と眩暈。カレンに、現実の視界が全て「文字」に見えてしまう、数時間の視覚障害。
社会:使用中、ゼノン社の「鑑定検閲アルゴリズム」に引っかかり、指名手配度が段階的に上昇する。
「……見えたわ」
カレンが、山のようなハードディスクの一つを指差した。
周囲の業者たちが「それはただの冷却水ログだ」と嘲笑う中、彼女の瞳は、そのデータの底にある「悲鳴」を捉えていた。
「……あれは、……九条の記憶じゃない。……九条が、……『肥料』にされた時に流した、……絶望の残滓よ。……ゼノンの連中、……こんなものまで再利用しようとしてる……!」
『……解析、終了。……カレン・ゼノンの指摘は、……合理的。……該当データを、……吸収対象として……ロックオン』
九条のアイコンが、また一瞬だけ赤く染まる。
だが、その冷徹な演算の裏で、九条の声がわずかに震えた。
『……司、……ありがとう。……僕、……少しだけ……思い出せそうなんだ。……君と食べた、……あの不味いうどんの味を……』
一瞬の人間性の回帰。
だが、それを打ち消すように、会場のスピーカーから不快なノイズが響き渡った。
『……不法侵入者を確認。……[GRAY] ID昇格試験への、……物理的介入を開始します』
会場の四隅から、マザーの警備ロボではなく、ゼノン社から「リーク」された最新の暗殺ドローンが起動した。
「……チッ、……マザー! ……あんた、……筒抜けじゃねえか!」
「……ククッ、……地下は、……裏切りの鮮度で……メシを食う場所だよ。……お若いの、……生き残れたら……IDはくれてやる!」
マザーの笑い声と共に、照明が落ちる。
暗闇の中、カレンの「青く光る眼」と、九条の「白い残光」だけが、俺の道標になった。
「……ログインだ、九条! ……ゴミを喰らって、……王座(GRAY)を奪い取るぞ!」




