共鳴するヘイト:賞金稼ぎと「肥料」の残響
闇リーグ第2会場。そこは昨日よりも殺伐としていた。
遠藤の放った『限定パッチ』のせいで、住民たちのIDが次々とエラーを吐き、照明は明滅し、自動販売機は金を飲み込むだけの鉄屑と化している。
「……あの自販機、『冗長なデータは去れ』って言って私の百円を返さないわ。……ツカサ、この街そのものが私を拒絶してる!」
カレンが油まみれのドラム缶に座り、半泣きで叫ぶ。
没落令嬢にとって、百円の損失は今や国家予算の赤字に匹敵する悲劇だ。
「……我慢しろ。……それより、来るぞ」
アリーナ中央。現れた対戦相手は、黒いバイザーで顔を隠した痩身の男——コードネーム『ケルベロス』。
あいつのアバターの周囲には、地下のゴミデータとは明らかに違う、洗練された「運営」の冷徹なエフェクトが漂っている。
『……ターゲット、捕捉。……佐藤司、鳳凰院カレン。……遠藤査察官の私蔵ログに基づき、……デバッグ(抹殺)を開始する』
「……遠藤の飼い犬かよ。……九条、準備はいいか」
『……司、……お腹空いた。……あの男の中の、……綺麗なデータ、……食べたい』
九条の声が、ゾッとするほど平坦だ。
MASTIFFの侵食率が上がっている。俺は震える手でキーボードを叩き、住民たちの怒号を「リソース」に変換する新パッチを走らせた。
【スキル名:共鳴不協和(Resonance Dissonance)】
効果:周囲の「エラーログ(住民の怒り)」を自身のパケットに強制同期させ、15秒間、自身の座標を「数百個の残像」として散布する。
取得条件:自身へのヘイトが100%の状況で、運営側の「高精度追跡パッチ」と直接交戦する。
成長条件:散布した残像のうち、本物を「10回連続」で見失わせる。
代償:
身体:ツカサに激しい耳鳴りと鼻血。
機材:サウンドデバイスが過負荷で物理的に損壊するリスク。
社会:地下ネットワークへの負荷を最大化するため、住民の通信が一時的に完全遮断される(=さらに恨まれる)。
「……ッ、行け! 一億人に嫌われた俺の、……最高のノイズだ!」
俺のアバターが、バグの奔流となって数百に分裂する。
ケルベロスの高精度レーザーが虚空を切り、アリーナの床を焼き切った。
「……ツカサ、心拍数が上がってるわ! リンクを切って、これ以上は——!」
「……黙ってろ! ……俺が止まったら、……あんたが肥料になるんだよ!」
俺の視界が赤く染まる。鼻から垂れた血が、キーボードを濡らした。




