遠藤のカウンター・パッチ:消えゆく旧式ポート
翌朝。
錆びた鉄扉を叩く、無機質なアラート音で目が覚めた。
【緊急警告:地域限定パッチの強制適用を検知】
【配信元:厚生労働省・査察部『MASTIFF』】
【対象:旧式プロトコル(Legacy API 0.4.2)】
「……クソっ、もう来たか!」
俺は飛び起き、PCを叩く。
画面には、遠藤査察官のアイコンが不敵に笑っているように見えた。
『佐藤司。……地下なら逃げ切れると思ったか? ……古い扉をいつまでも開けておくと、そこから毒気が漏れる。……全ポート、閉鎖する』
遠藤が放ったのは、地下の「旧式認証プロトコル」そのものを無効化する、ピンポイントの追跡パッチだ。
昨日使った『レガシー・ポート・エクスプロイト』が、文字通り「塞がれた」。
「ツカサ! これ、どういうこと!? 私のIDが……『更新が必要』ってエラーを出してるわ!」
「地下IDの発行元がパッチを喰らってやがる……! あいつ、地下の住人ごと俺たちを追い出す気だ!」
周辺のコンテナから、怒号が響き渡る。
地下の住民たちも、自分たちの「生活基盤(旧式API)」が壊されたことに気づき始めた。
『……司、……危険。……住民たちの、ヘイトが……僕たちに向かっている』
九条の声が、冷徹に現状を分析する。
昨日の「救世主」は、一晩で「厄災」に変わった。
マザーの情報通りだ。ここは、誰かが得をすれば誰かが損をする、ゼロサムの戦場。
「……逃げるぞ、カレン! 予選会場へ! あそこなら、公式パッチを物理的に弾く『強力なノイズ・キャンセラー』があるはずだ!」
俺は、新スキルをキーボードに仕込みながら、カレンの手を引いて走り出した。
【スキル名:偽装反響】
効果:自身から漏れる「指名手配ログ」を、周囲の「地下住民の雑多な通信パケット」に一時的に混ぜ合わせ、査察ドローンの照合精度を15秒間だけ20%低下させる。
取得条件:自身が「集団のヘイト」を受けている状況で、10分以上捕捉されずに移動し続ける。
成長条件:本スキル発動中に、監視ドローンの「ロックオン」を3回連続で解除する。
代償:
社会:周囲のパケットを汚染するため、地下住民からの「悪評ポイント」が蓄積される。
機材:PCのネットワークアダプタに過負荷。使用後、5分間は自身の通信速度が極端に低下する。
「……ッ、ごめんよ、地下の皆さん! 俺のノイズを、ちょっとだけお裾分けだ!」
俺はスキルを起動し、周囲の住民たちの端末を「盾」にして、ドローンの視界を掻き回した。
住民たちの怒号が背後で爆発する。
「ツカサ、これ……最低のやり方ね!」
「ああ、最高だろ!? ……今の俺たちは、世界で一番の『ゴミ』なんだからな!」
アリーナ『ジャンク・ヘブン』の入口。
そこには、遠藤のパッチに抗うように、さらに禍々しい黒い光を放つ「第2戦の相手」が待ち構えていた。
規約の縁は、さらに細く、鋭くなっていく。




