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共犯者のドライブ:聖女の仮面を剥ぎ取れ

 黒塗りの車——そのスモークガラスがゆっくりと降りた。


『……乗りなさい。立ち往生している暇はないわよ』


 後部座席に座っていたのは、鳳凰院カレンだった。

 ただし、画面の中の優雅なドレス姿じゃない。タイトなビジネススーツ。現実の「鳳凰院家の令嬢」としての冷徹な眼差し。


「……お嬢様。ストーカーを車に乗せていいのか? 世論(掲示板)がまた荒れるぞ」


『ふん、あれはただの演出プロパガンダよ。……早くしなさい、査察部の増援が来るわ』


 俺は転がり込むように車内へ入った。

 車内は無人運転オートパイロットで、驚くほど静かだ。遮音材が“金持ちの沈黙”を作っている。


 カレンは俺のポケットのSSDを一瞥し、短く溜息をついた。


『九条くん……いえ、その“亡命ノイズ”は無事なの?』


「……狭いって文句言ってる。あと、俺の息がうるさいんだと」


『……生きてるのね』


 ほんの一瞬だけ、カレンの表情が和らいだ。

 すぐに消える。仮面は完璧だ。


 彼女はタブレット端末を俺に突き出した。

 画面は黒背景、白文字。上部に小さく【極秘】の透かし。


【極秘:S-GHOST運用計画(改)抜粋】

・マスターユニット不在時の代替演算確保

・受給者端末の“生体波形”を分散接続(任意→準強制へ)

・算定:社会復帰ポイント/給付配分アルゴリズムへ直結


「……全受給者? 九条一人じゃ足りなくて、今度は国中の貧乏人を『肥料』にするつもりか」


『ええ』


 カレンの声は淡々としている。

 でも、瞳の奥だけが怒っている。


『あなたのパッチ適用で九条くんが“ロスト”した。……その穴埋めに、彼らは計画を前倒しする。あなたはもう、ただのニートじゃない。この国の“バグそのもの”なのよ』


「嬉しくねぇ称号だな」


 車内に、ふっと花の香りが流れた。

 嗅覚デバイスの疑似じゃない。高い香水——現実の匂いだ。逃げて汗臭い俺には、嫌がらせレベルに上品。


 カレンの指が、俺の汚れた囚人服の袖に触れる。

 そのまま視線を前へ。


『捕捉を切る。三百秒だけ』


 彼女が端末で何かを操作する。

 “魔法”じゃない。社会の穴を突く、現実のチート——制度の隙間だ。


【スキル名:情報偽装ゴースト・ノイズ

効果: 自身のアカウントと現実の電子IDを、周囲の通信ノイズに紛れ込ませ、監視カメラ/ゲート/NFCの「照合精度」を300秒間だけ低下させる(別IDとして誤認されやすくする)。

取得条件: 監視ユニットに追跡されている状態で、10分間一度も“本人照合”されない。

成長条件: 発動中に、重要施設のセキュリティゲートを“誤認通過”させる。

代償: 発動終了後、自身の全アカウントの「信用スコア」が一時的に最低値(Eランク)まで下落し、電子決済・認証がほぼ不可能になる。


「……なるほど。俺の信用を担保に、幽霊ゴーストになれってか」


『ええ。あなたは元々信用が低いから、切り捨てやすいでしょう?』


「それ、慰めのつもりか」


 カレンは笑わない。

 代わりに、真っ直ぐ言う。


『一週間。特例試験の“再試合”が組まれるわ。——あなたはそこに引きずり戻される。逃げても無駄よ』


「……で、どうする」


『再試合の配信で、九条くんの意識を“世界に再発信ストリーミング”しなさい。証拠にするの。人間を肥料にする計画を止めるには、世論を逆に燃やすしかない』


「エンディング、ねぇ。……バッドエンドにならない保証はあるのか?」


 カレンは俺の目を見つめ、不敵に笑った。

 それは、いつもの優雅な悪女の笑みじゃない。腹を括った人間の笑いだ。


『私が、演出してあげるわ。……最高に汚い、ハッピーエンドをね』


 窓の外では、追跡車両のサイレンが遠ざかっていく。

 俺と、お嬢様と、PCの中に住む亡霊。


 奇妙な三人旅が、夜の街へと消えていった。


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