結婚式 2
領地から父と弟エルディスが来ている。
「立派になってぇぇぇ……幸せにおなり!!」
「父さん……今から泣いてどうするの」
父は号泣していた。エルディスがハンカチを差し出している。
「ありがとう、二人とも」
「まあ、ヴィランド卿なら姉さんを任せられるから」
「……そうね」
見上げてみれば天井はどこまでも高く彫刻で埋め尽くされていた。
中央神殿は可愛らしいカフェ・フローラの内装と違い荘厳な印象だ。
彫刻の一つ……美しい乙女と初代国王陛下の寓話。
もしかしてあの乙女はかつての森の魔女様なのだろうか。
視線を前に向けると祭壇まで赤い絨毯が引かれていた。
騎士団長様は、その先で待っている。
白い騎士団長の正装……見目麗しい姿だ。
――珍しいことに少々緊張しているようだ。
すでに貴族たちが参列している。
そこに見知った顔を見つける。
というより、先ほど彼は控え室にいた。
――そう、フェイセズ様は魔術師団副団長であると同時に、子爵家の出身なのだ。
父のエスコートで祭壇へと向かう。
騎士団長様より一段高い壇上にいるのは……。
「陛下」
陛下の登場に慄く父から、眉根を寄せた騎士団長様へとエスコートが変わる。
「おめでとう」
「……」
「おや、困惑しないでおくれ。この国の神殿には初代国王陛下が奉られている。つまり神官の頂点は国王である俺なのだ」
「……」
そんな陛下は、昨日までカフェ・フローラでお忍びで店員をしていた。
それはたぶん、森の魔女様のそばに少しでもいたいという思いなのでは……と私は思っているのだけれど。
――剣に魔法に給仕に神官まで。陛下にはできないことはないのだろうか。
「……建国から長きにわたり、騎士団長はこの国を王とともに守り続けてきた。だが、人には安らぎが必要であろう。伴侶を手にしたこと、心から祝福する」
「ありがたき幸せ」
「陛下の御心に感謝いたします」
「では、誓いの口づけを」
陛下や参列者の前で口づけをするのは緊張するけれど……。
エメラルドグリーンの瞳が私を見つめている。
「何があろうと君を守り抜こう。俺の家族になってくれ」
「ええ、私はあなたの帰る場所になります」
王国ではごく一般的な誓いの言葉。
この国は建国から魔獣や自然との戦いの中にあった。
彼は今も、災厄の中心に立ちこの国を守り続けている。
鬼騎士団長だと、人々は王国の守護者である彼を呼ぶけれど……。
今幸せそうに満面の笑みを見せている騎士団長様は『鬼』なんて言葉、少しも似合わないのだった。
目を閉じると、唇がそっと重ねられた。




