表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くつろぎ庵へようこそ  作者: あきづきみなと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/36

とりもどせないもの。2

「いらっしゃいませー」

かららん、とドアベルの音に鈴は呼び掛ける。目が合った瞬間リアンヌは何とも申し訳なさそうな、情けないような顔をした。

「ごめんなさい、リン。ちょっと人数が多いのよ」

「構いませんよ、どうぞ。人数が多いなら、そちらの丸テーブルを使ってください」

普段はテーブル席を幾つか並べてゆったりしている店内は、今日は中央に大きめのテーブルを置いてある。カウンターに複数置かれるお茶のポットも一つきり、普段より什器を減らして片付けた。

それでも、遥々隣国の王都からきた青年達にとっては予想外の環境だったようだ。

「……何だ、この店は」

クレマンドが呻くが、後の青年達はむしろ声もない。唖然呆然、といった間抜け面を晒している。

決して広い店内ではない。カウンターの他はそのテーブルを置いて後は人が行き来するのがやっとのスペースのみ。けれど清掃が行き届いて汚れも埃溜まりもなく、またテーブルや椅子もさりげなくあちこちに飾られた小物も、生まれついての貴族でさえ知らないレベルの高級品だった。少なくとも彼等にはそう見えた。

「本当に今日は大勢なんですね」

「ごめんなさいね」

「大丈夫ですよ、アンナさんに手伝っていただきましょう」

さすがにこの人数は、鈴一人だと手に余る。また相手が我慢の効かない貴族のぼんぼんだとも聞いていたから、一応予防策をとった。席に着いた彼等の前に、アンナと二人でお茶の器といつもの菓子皿を並べていく。

「……頼んではおらんぞ」

不審を描いたような顔でオーレングリンが文句を言おうとするのに、澄ましてリアンヌが遮る。

「このお茶と菓子はここのサービスですの。昼食がまだなので、私達はお昼をいただきますわ」

「あ、今日の日替りは『シーフードミックスフライ』ですよ」

すかさず鈴がメニューを伝え、同時に書いてあるものを差し出す。

「今日の日替りは70ポン、それ以外の軽食は50ポンからです。お茶は無料ですが、ご自分であちらから注いでいただきます」

「こ、この『でざーと』というのは何なのだ」

テイラーが僅かに上ずった声で問い質すのに、鈴は殊更目を見開いてみせる。

「『デザート』ですか?甘いものですよ、今日のパフェはフルーツしかありませんが、パンケーキはシロップとバター、クリームから選べます」

その説明はしかし彼等にも半分も理解出来なかったのではないか。聞いたテイラー自身呆然としている。

「……ちゃ、茶が無料では儲けが出ないではないか、一体何で儲けているのだ」

オーレングリンが難癖をつけようというのか、言い出すのに鈴はさらりと受け流す。

「代わりに滞在時間で席料をお支払いいただきます。一刻で50ポンからですね」

メニューには日替りランチを始め、肉と魚それぞれの定食とサンドイッチやパスタ等の軽食、デザートや有料の飲み物がずらずら並んでいる。

この世界では、高級と言われる料理店でも予め決まったコース以外は出せないのが普通らしい。コースとは縁遠い安価な店は、軽食が2・3種類もあれば上等な部類だ。

このお坊っちゃま達がそこまで市井の状況を把握しているとは思えないが、最低限の知識さえない訳ではないだろう。

「じゃあ俺は肉の定食で頼む。今日は何だ?」

「鶏の唐揚げですよ、カークスさんあれ好きですよね」

「俺は魚にしよう。今日は煮付けか、美味そうだな」

彼等が呆然自失している間にカークスとフレディも自分の注文を通す。

「はい、承りました。スーさんは?」

「私はオムライスで。トマトの方ね」

残ったスーに問えばメニューとにらめっこしていた彼女は意外にあっさり答えてくる。それも言わば彼女の『いつもの』、定番メニューだ。

「そちらのお客さん方はどうなさいますか?」

それに頷いて鈴は未だに固まっている青年達に声をかける。

凝った飾りを無数につけた彼等の格好はなかなかセンスが良く高級なものなのだろうが、鈴の現代日本的感性からすると飾りが多すぎてこの年頃の男性には似合わない気がする。ただファッションは時代や社会によるところが多く、所変わり時が移れば全く様相を変えるものだ、くらいは鈴も認識しているから突っ込まない。

「我々の舌を満足させる自信があるのだろうな?」

「いえ、ここは単なる軽食つきの休憩所ですから。そんな大仰なものは出せませんし、席料だけでも構いませんのですけど」

傲岸に宣うクレマンドに切り返す鈴も、この青年達がリアンヌに何やら遺恨持って訪れたことは知っている。というか、フレディから事前に説明された。

彼としては『今更顔を出せた筋合いでもなかろうに……』とかなり憤っていたが。物静かであまり表立つ行動をとらない彼にしては珍しい様子に、その鬱憤が伺えるというものだ。

実際、鈴の説明に顔をしかめる様子には、甘やかされた傲慢さが見てとれる。どう出るか、と思っているとけち臭い振る舞いは侮られると思ったのだろう。

「だったらこの店で一番高いものを持ってこい!」

「でしたらリアンヌさんと同じ日替りですね、皆様同じものでよろしいでしょうか」

その剣幕を鈴はあっさり受け流して問い返した。ぐっと言葉に詰まるクレマンドに、慌ててラグドスが割って入る。

「待て、普通日替りというのは安価なものではないのか!?」

「今日はちょっと豪勢なもので。皆様同じですと、少しお時間をいただくことになりますが、それでも良ければ」

突っ込んでも受け流され、結局彼等は揃って『日替りランチ』を取ることになった。

「さーてエレンさん、お手伝いよろしくお願いしますね」

「はーい」

さして広くもない厨房で、揚げ物を仕込んだらそれ以外の準備に勤しむ。その間にエレンが、お茶を配りサラダや汁物もそれぞれのメニューに合わせて置いてくれる。

「はいこれ、フレディさんに」

すぐ整うのは温めるだけの煮物だ。ぶり大根をざっくり皿に盛り合わせ、それだけでは寂しいから卵焼きと青菜を乗せる。

「こっちはスーさんね」

オムライスも基本温めるだけになっている。レンジから出したらトマトソースをたっぷり掛けて出来上がりという手軽さだ。

この二品は主食が米飯、ライスになる。敢えて鈴は、その選択を今日は与えなかった。

「あつつ、ほいっと。カークスさん出来ましたよー」

もちろん鈴が料理の用意している間も、彼等はただ黙ってその出来上がりを待っていた訳ではないのだが。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ