はじかれた先では
JAのグリーンセンターには基本的に近場の住人しか来ないのが通常だ。地元以外の観光客は来るにしても通過してもっと名の知れた観光地へ行くのが当たり前。
その日、観光バスがその駐車場に停まったのは偶然だ。時間調整のためにやたらと広いその駐車場でしばらく駐車するというので、乗っていた観光客は暇つぶしに店舗を回っていた。
「やっぱり野菜、安いわねー」
「あら、お菓子とかも売ってるんだ。買っていこうか」
「バスの中で食べるの?」
全く地元以外の人間が来ないわけではないと言ってもこうして一度に大人数が訪れるのは珍しい事態ではある。レジのおばちゃん達も大張り切りだ。
「はいありがとうございますー」
「えーとミカンと総菜パックで、……割り箸要りますか?」
手際はさほど良くないが、人が多いと言っても普段に比べれば、という話だ。週末のスーパーよりは少ないくらい、さばききるにはそれほど時間も掛からない。
そうして人がはけてふとみれば。
「あれ、花のピン無くなっちゃったね」
「あー、何かまとめて買ってった人いたよー」
ありふれた手作り品で、値段も大したことはない。造りも簡単だしデザインも同様。だが何故かそれがたまたま今回の観光客達のツボに入ったらしい。
「まあまた発注しことう」
それで済むなら良かったのだ。済まなかったのは鈴の地元ではなかったが。
「なるほど、生地の残りで作るということですね」
「お嬢様の手紙によれば、ドレスを作った切れ端で十分というのだけれど……どうかしら」
某所では届けられた手紙を元に会議中だった。彼等彼女等が『お嬢様』と呼ぶ女性から送られてきたその手紙は、受け取った者達を興奮させる情報を含んでいる。
「確かにこの絵図面をみれば、生地の量は僅かで良さそうです」
「裁断した残りの布が利用できるのは有り難い」
かつて第三王子の婚約者だった公爵令嬢は不名誉な婚約破棄の後国外に出奔したが、彼女に恩を感じる者はその領内に限らず多い。中でも彼女が興した商会の人間は未だに彼女を慕い、稀に届くその手紙を心待ちにしている程だ。
今回、彼女が送ってきた手紙ではこの生地を有効活用するための策が書かれていた。曰く、ドレス用の端布の残りで作る花飾りだ。ドレスそのものに共布で装飾を付けるのは良くある手法だが、今回のものはそれを単体で使用できるところが新機軸と言えよう。
ドレスは基本的に貴族女性、もしくは極めて裕福な階級の女性のみ誂える、基本的に受注生産の代物だ。その生地から特注で生産することさえ珍しくはない。少なくとも彼等のかつて拠点を置いていた王国においては。
しかしそうした高級な布地がドレスを一着作っただけで処分されるのは惜しいとは彼等実際に作り売る側も感じていたこと。貴族の中には自分のドレスに使った布地を他に流用されるなど許せない、と言う者もいるがこの商会では使用した材料の残りは商会に権利があるという誓約書を交わしている。それによってドレスに合わせた靴や鞄なども売りつけていたのだが、更に僅かな布地で出来る小物は他にも販売可能だ。やがて製作された端切れの花々はあっという間に人気商品になったが、商会はとある国にだけは販売を行わなかった。それは元々彼等の出身国でもあるテヴァルトレイル王国。
人気の品が直接売られないとなれば、入手のためには仲買を挟むしかない。もちろん仲買商人は自分達の利益を乗せるから割高になる。
彼等彼女等は令嬢の件もあり、王国を出たのだが。当のテヴァルトレイル王国自体、ここのところ求心力が落ちているという噂だ。彼等のような贅沢な衣料品を扱う店は軒並み苦戦を強いられ、にも関わらず税金も上がる。交通網の整備や治水工事等必要な社会基盤はなおざりのまま華やかな舞踏会が繰り返されると専らの噂だ。それも、件の第三王子とその側近が『聖女』の求めに応じて行っているらしい。
異世界から召喚された『聖女』は最初のうちこそこの国に平和をもたらす女神の使者、ともてはやされていたのだが、今となってはもてはやされるだけで何一つしない、ちやほやされる贅沢な生活を享受するだけの穀潰しではないか、と囁かれる始末だ。
実際この異世界からきた娘は何もしなかった。公爵令嬢に苛められた、という話もそもそも何処で会う機会があったのかと当初から疑問視する者も少なくなかった。元より第三王子と取り巻き達が張り付いている相手を苛める等できるはずもない。
そして令嬢を国外追放して以来は、王子達とイチャイチャしながら贅沢に遊び暮らし、王宮でも顰蹙をかっているらしい。




